2023年10月7日、イスラエル人がこの日を今後、忘れることはないだろう。同日、ハマスの戦闘員らがパラシュート部隊などとしてイスラエル領内へ越境して降り立ち、地元住民や音楽祭に参加していた人々を次々に襲撃。この日だけでイスラエル側の犠牲者は1100人を超えた。

 また、ハマスの戦闘員らに拘束された民間人は用意された車に強制的に乗せられ、ガザ地区に連行された人質の数は250人に及んでいる。1948年の建国以降、イスラエルがここまで大規模な攻撃を外部から受けることはなかったことから、同日は「イスラエルにとっての9.11」として人々の間に深く刻み込まれた。

 そして青年時代を家族とともにアメリカで過ごしたネタニヤフ首相はハマスを9.11を実行した国際テロ組織アルカイダに重ね、ハマス根絶を目的とした軍事作戦を強行していくこととなった。すでにパレスチナ側の死者数は4万人を超え、トルコはイスラエルとの貿易を停止。インド洋のモルディブはイスラエル人の入国を禁止するなどしているが、ネタニヤフ氏は強行な姿勢を緩和させる姿勢を見せず、いよいよ中東全面戦争のシナリオも現実味を帯びている。

 ネタニヤフ首相はなぜ、そこまで強硬姿勢に徹するのか。

 その最大のポイントは、「自衛」という考え方である。新首相となった石破茂氏が「アジア版NATO」の創設を提唱したことで大きな物議を醸したように、他国は集団的自衛権で基本的に制限がないものの、日本の場合は「密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」という条件を課し、集団的自衛権を限定的にしか行使できない。しかし、ネタニヤフ氏のイメージする「自衛」は日本とは相反するもので、過剰な自衛も正当な権利となる。

 潜在的な敵もいつかは根絶する、イスラエルの安全を脅かすテロリストを全て殺害、拘束するまでは犠牲はあっても攻撃を続けるなどといった考えが、ネタニヤフ氏の脳裏にはある。敵か味方かを区別し、敵に対する攻撃はユダヤの神によって許された行動などとする解釈は、アルカイダやイスラム国といったイスラム過激派が訴える聖戦ジハードと変わるものではなく、ネタニヤフ氏の攻撃スタイルは「ユダヤ主義的ジハード」とも表現できよう。

 国内メディアでも中東情勢は大きく取り上げられるが、その多くはイスラエルによる「攻撃」という前提で報道しているが、これを「自衛」という感覚で捉えれば、なぜイスラエルが強硬な姿勢を続けるのか、戦闘がいつまで続くのかが見えてくる。

北島豊

【写真ギャラリー】大きなサイズで見る