テニスの日本チャンピオンを決める「三菱電機ビルソリューションズ 全日本テニス選手権99th」(10月4日~13日/東京・有明/ハードコート)は8日、女子シングルス準々決勝と、男子シングルス3回戦他が行なわれた。
男子では、1~2回戦免除の上位4シードが登場。第1シードの白石光は、今大会が全日本初出場の本田尚也と対戦した。
「いやぁ……100点だったと思います、今日は」
自分で自分への驚きと感嘆を滲ませながら、白石光がしみじみと言った。スコアは6-1、6-3。試合時間は1時間21分。若い相手の勢いを削ぎ、自分のゾーンに引き込むかのような、確かに“白石らしさ”全開の完勝だった。
“スーパーシード”の響きは良いが、当の選手からしてみれば、上り調子の相手といきなり対戦するのは、実際には嫌なものだ。特に相手が、失う物のない若手となれば、なおのこと。
「僕にとっては今日が初戦で、本田選手は2試合勝っている。6歳年下の選手ですし、プレッシャーしかなかった」と、試合後に白石が打ち明けた。ただそのような重圧の掛かる状況をも、白石は完璧なまでに想定し、万全の備えを整えてきた。
「ドローを見た段階で(本田が)上がってくるなと思ったので、けっこう動画を見ました。見ながら、どういう習性があるか、どういうタイプかというのを準備して、練習の中で対策も練ってきた」
先々まで試合がないのを知りながらも、開幕前から会場入りし、練習にたっぷり時間を割いた。今年の夏に塗り変えたため、例年より遅くなった有明コロシアムの特性も、十分頭に入っていただろう。
「本田君は、バックハンドがすごく上手。そこで、あまり早いテンポでラリーしない。自分からそこまで打たずに、ゆっくり打ち合う中でチャンスの時だけ前に行って攻めようと思ったし、スライスも今日は増やしました」
その言葉通り、早いテンポで打ち込んでくる本田のショットをペースを落として深く返し、次々ミスを誘っていく。時おり鮮やかなウイナーも決められるが、その時は「ナイスショット」と相手を称えて、切り変えた。
本田にしてみれば、攻めても、攻めても、緩いながらも精緻に制御されたボールが必ず返ってくる状況に、息詰まるような重圧を覚えたことだろう。10本を数えたダブルフォールトも、白石が引き出したと言える。
「なかなか、海外にもジュニアにもいないタイプ。スライスのディフェンスだったり、ボールも凄く深いですし……」
大会第1シードの強さを振り返る本田は、「本当に、良い意味で嫌なテニス」と苦笑いをこぼす。もっともこの言葉は、白石にしてみれば、これ以上ない誉め言葉だろう。
高校、大学といずれも「日本一」のタイトルを手にしてきた白石は、全日本選手権優勝への想いも人一倍大きい。
「今年が、全日本7度目。本田くんの年齢くらいから出ているので、年を重ねるごとに、良い集中でプレーできているかなと思います」
第1シードが、淡々と、だが着々と、頂点への距離を縮めていく。
なお、白石以外の男子シングルスでは、第4シードの今村昌倫が望月勇希を7-6(5)、6-2と押し切り、第8シードの片山翔が丹下颯希を6-1、6-2と寄せ付けず勝利を手にした。
一方女子勢では、18歳で初出場ながら第1シードを張る齋藤咲良が、米国ワシントン大学卒のプロ1年生、佐藤光と対戦。第1セットを落とし、第2セットも1-4とリードされる苦しい展開ながら、5-7、7-5、6-4の大逆転勝利をもぎ取った。
第2シードの伊藤あおい、第3シードの石井さやかも快勝でベスト4へ。また、第8シードの今村咲が、第4シードの佐藤南帆を破り勝ち上がってきた光崎楓奈に勝利。女子ベスト4は22歳の今村が最年長という、フレッシュな顔ぶれがそろった。
◆男子シングルス3回戦の結果(10月9日)
○今村昌倫(JCRファーマ)[4] 7-6(5) 6-2 望月勇希(エキスパートパワーシズオカ)[13]●
○白石光(SBC メディカルグループ)[1] 6-1 6-3 本田尚也(サトウGTC)[WC]●
○熊坂拓哉(イカイ)[6] 6-4 7-6(6) 松村亮太朗(村田精工)[Q]●
○片山翔(伊予銀行)[8] 6-1 6-2 丹下颯希(日本大学)[Q]●
◆女子シングルス準々決勝の結果(10月9日)
○今村咲(EMシステムズ)[8] 6-2 6-0 光崎楓奈(フリー)●
○石井さやか(ユニバレオ)[3] 6-1 6-1 清水映里(東通産業)[6]●
○齋藤咲良(富士薬品)[1] 5-7 7-5 6-4 佐藤光(アクロステニスアカデミー)[9]●
○伊藤あおい(SBC メディカルグループ)[2] 6-3 7-6(3) 松田美咲(エームサービス)[11]●
※[Q]は予選勝者、[WC]はワイルドカード、名前の後の番号はシード
取材・文●内田暁
【画像】白石光や齋藤咲良ほか、有明で躍動した選手たち|全日本テニス選手権99th 第6日
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