元スペイン代表で、今夏までUAEのエミレーツ・クラブでプレーしたアンドレス・イニエスタが22年間の輝かしい現役生活に終止符を打ち、10月8日にバルセロナで会見を行なった。
2002年10月にバルセロナでプロデビューを果たし、ここでラ・リーガ(9回)、チャンピオンズリーグ(CL/4回)、クラブワールドカップ(3回)、コパ・デル・レイ(6回)、スペイン代表としても126試合に出場しワールドカップ(2010年)、EURO(2008、12年)と、獲り得る限りの全てのタイトルを獲得し、2018年から加入したヴィッセル神戸でも天皇杯(2019年)を勝ち取った稀代のテクニカルかつクレバーなMFは、40歳でユニホームを脱ぐにあたり、以下のように語っている。
「90歳までプレーできるなら続けたいし、10年後もまだやれたかもしれないが、40歳までプレーを続けられたことで十分だ。僕はいつも自分自身の意思をはっきり示してきた。もうプレーしないと決め、今は他のことに目を向ける時期が来たと感じている。今後は新しいことを学び、サッカー以外の世界のことをもっと知りたい。すでにもう、幾つかのプロジェクトがある」
「デビューしたCLのクラブ・ブルージュ戦、そしてその後に三王礼拝の日にラ・リーガ(レクレアティボ戦)でプレーしたのが、僕にとっての最高の日だった。その後、多くのタイトルを獲得し、幸せな瞬間が多くあった」とバルサでの栄光の日々を振り返った彼は、引退後に古巣で指導に携わる可能性について、「ハンジ・フリック監督が長く指揮を執ってくれることを願っている。今は、僕は外から応援するだけだ。現時点でまだ、僕は(指導者になるための)最初の授業にも出ていないのだから」と語るに止めた。
また神戸での日々についても言及し、「2018年に、人生で最も難しい決断を下した。少しリスクもあったが、バルサを去り、日本の神戸に行くことを決めた。5年間日本で過ごせたのは、素晴らしい経験だったと言える。2つの初タイトルを獲得して新たな歴史を創るなど、クラブに貢献できた。神戸、そして日本が素晴らしい形で僕や家族を迎え入れてくれたことで、まるで家にいるような気分にさせてくれた」として、感謝の意を示している。
イニエスタの引退を受けて、バルサで互いに黄金時代創成に尽力し、サッカーの歴史をも変えてみせた盟友リオネル・メッシが自身のSNSで「最も魔法を持った仲間のひとりであり、一緒にプレーしていて一番楽しめた仲間のひとりでもあった。アンドレス、ボールも君を恋しく思うだろうし、僕たち全員もそうだ! いつも君の幸運を願っているよ。君は本当に素晴らしい人だ」とメッセージを贈った。
イニエスタは会見の前、自身のSNSに、映像で自身のキャリアを振り返るとともに、これまでに指導を受けてきた過去の監督がイニエスタについて回想する動画を公開していたが、その中で彼をトップチームに引き上げたオランダ人指揮官のルイス・ファン・ハールは「華奢な体格で、いつも頭の中はサッカーのことだけだった」と明かしている。 2014~2017年までのボスだったルイス・エンリケは「暗くなってボールが見えなくなっても、母親に呼び戻されるまで路上でサッカーをしている子どもの頃の気持ちを、プロになっても体現していた。それがアンドレス・イニエスタだ。彼は40歳になっても、まだプレーを続けるべきかどうか迷っていた」と、この“マエストロ”の本質を指摘した。
ともに黄金時代の扉を開いたペップ・グアルディオラ(2008~2012年)は、「6試合で勝点1しか取れず、降格圏に近かった時、アンドレスは私に『我々は正しい方向に進んでいる。人々は幸せだ。状況は好転するだろう』と言った。それが私に前進し続けるために必要なエネルギーを与えてくれた。私はそのことに常に感謝している」と、監督就任1年目のエピソードを紹介している。
そして、代表チームで世界&欧州の両方を制した際のボスであるビセンテ・デル・ボスケは、「(バルセロナ)ダービーでバルサがエスパニョールに4-1か5-1で勝ったのを憶えているが、敵地だったにもかかわらず、イニエスタはスタンディングオベーションを受けながらピッチを去った。このことが、彼がどれほど人々から愛されているかを完璧に表わしていると思う」と、いかにこのMFが見る者の心を魅了する選手だったかを強調した。
レアル・マドリーのレジェンドでもあるデル・ボスケは、スポーツ紙『MARCA』でのインタビューでも、宿敵バルサの中核であるとともに「ラ・ロハ」(スペイン代表の愛称)では最も頼れる存在のひとりだったイニエスタを称賛しており、「普段は控えめで慎重に行動する少年だったが、必要な時にはしっかり意見を言い、周囲から尊敬を集めていた。彼を含め、そこにいた全員がチャンピオンになるに相応しい選手だった。我々は、チャンピオンになる運命にあったと思う」と語っている。
彼はまた、イニエスタの新たなキャリアについて「最も重要なのは、彼がこのスポーツの中で自分に合った選択をし、自分が最も能力を発揮できる活動をしていくことだ。何より、彼が今後もサッカーから離れることのないよう願っている」と助言するとともに、変わらぬサッカーへの貢献に期待を寄せた。
全てのタイトルを手にし、2010年W杯では優勝決定のゴールを決めるなど、栄光に包まれたキャリアを過ごしたイニエスタだが、一方でメッシ、クリスティアーノ・ロナウドという歴史的な選手と同時代を生きたことで、個人タイトルの最高峰であるバロンドールをついに手にできなかったことは、彼にとって唯一の不運と言えるかもしれない。しかし、それが彼のサッカー人生に何ら影を落とすことはなく、偉大なピッチ上の創造者として世界中で記憶されるに違いない。
構成●THE DIGEST編集部
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