「何をしないか」ではなく「何をするか」と目標を置き換えるだけで達成率は高まる / Credit: Unsplash
甘いものは食べない、運動を1日15分するなど。
新年の目標をどのように立てたら行動が習慣となり継続できるのでしょうか。
近年の研究によると、どうやら目標の立て方ひとつで行動の維持率が大きく変わるようです。
スウェーデン、ストックホルム大学のマーティン・オスカーソン氏(Martin Oscarsson)らの研究チームは、新年の目標の立て方によって、行動の維持率が変わるかを検討しました。
実験の結果、「無駄遣いをしない」などのある行動を禁止する目標を立てた人と比較して、「毎日水を飲む」などの取り組む行動に関する目標を立てた人のほうが、約12%目標にした行動を続けることができていたのです。
研究チームは「減量するために甘いものを控えることを目標にする場合、代わりに『1日に1個果物を食べる』と目標を立てるほうが成功する可能性が高くなる」と述べています。
研究の詳細は、学術誌「PLOS ONE」にて2020年12月9日に掲載されました。
目次
新年に立てた目標はどれだけ維持されるのか「何をしないか」ではなく「何をするか」で習慣にしたい目標を立てる
新年に立てた目標はどれだけ維持されるのか
新年になると多くの人が目標を立て、達成しようと新たな行動を始めます。
何月に実施される試験に合格するであれば、その試験に受かるよう勉強する必要がありますが、健康維持やスキルの向上のため、毎日15分間運動する、週に2回英会話のレッスンを受けるなど習慣の形成を新年に決意することもあるはずです。
そのような新たな行動はどれくらい維持されるのでしょうか。
去年掲げた新年の目標を1年継続して実行している人の方が少ない気もします。
そもそも立てた目標自体を思い出せない人もいるでしょう。
新年に目標として決意した習慣の継続率を2年間に渡って追跡調査した、米スクラントン大学のジョン・ノルクロス氏(John Norcross)らの研究では、新年から1週間後には約77%、1カ月後には約55%、3カ月後には約43%、6カ月後には約40%、2年後には約19%が目標としていた行動を継続していることを報告しています。
実験の結果を改変。 / Credit: Norcross &Vangarelli, (1988).
この結果から新年に目標を立てても習慣として行動を維持できる人は半数以下になってしまうことが分かります。
しかし逆に新年に目標を立ててるとよほど無茶な習慣でない限り、20%以上の確率で継続することが期待できるとも言えるでしょう。
実際に同じくノルクロス氏の研究チームは、新年に目標を立てた人と立てなかった人を集め、新年から6カ月後に電話調査を行っています。
結果、目標を立てた人の約46%は目標を達成していたのに対し、目標を設定しなかった人は約4%しか目標を達成できていませんでした。
新年に目標を立てる重要性はわかったとして、どのようにすれば少しでも行動の継続率を高めることができるのでしょうか。
ストックホルム大学のマーティン・オスカーソン氏(Martin Oscarsson)らの研究チームは、新年の目標の立て方で行動の継続率がどのように変わるかを検討しています。
実験では、12月の最後の週にオンラインで募集した参加者1,062名を、以下の3つのグループに分け、新年の目標(たとえばお菓子を食べるのを控える)を立ててもらいました。
統制グループ:特に指示を受けない
社会的サポートグループ:立てた目標をサポートしてくれる可能性が高い人を考える
目標の立て方グループ:「何をしないか」ではなく「何をするか」と目標をを設定するよう促される
このように新年の目標を設定する際の実験者側からの助言の有無、内容に違いを設け、年明け後1年の行動の継続率を比較しました。
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「何をしないか」ではなく「何をするか」で習慣にしたい目標を立てる
分析の結果,参加者は身体的な健康をはじめ、仕事や睡眠に関するさまざまな目標を立てていました。
どうやら新年には健康面の改善につながるような新たな行動を習慣化する目標を設定する人が多いようです。
実験の結果を改変。 / Credit: Oscarsson et al., (2020).
そして社会的なサポートを受ける人物の存在を考えた人は、他の何も指示を受けない人、あるいは取り組む行動を設定するよう促された人と比較して、目標に設定した行動の継続率が高くなりました。
Credit: Oscarsson et al., (2020).
この結果だけをみると、「何をするか」と目標を設定するよう促された人は、他のグループの人よりも、行動の継続率が劣っていることになります。
しかし実際に実験者からの助言に従ったか否かで分けるとそうではありませんでした。
実験者の助言に従い「毎日腹筋する」など取り組む行動を目標とした人と比較して、「無駄遣いをしない」などのある行動を禁止する目標を立てた人のほうが、行動の継続率が約12%低くなっていたのです。
実験の結果を改変。 / Credit: Oscarsson et al., (2020).
この結果は、同じ健康に関する目標を立てる場合であっても、「お菓子やスナックを食べない」という目標よりも「野菜や果物を食べる」という目標を立てた人の方が行動を維持しやすいことを意味しています。
研究チームは「目標設定の表現を変えるだけで効果があるだろう。たとえば減量するために甘いものを控えることを目標にする場合、『お菓子の代わりに1日に1回果物を食べる』と目標を立てるほうが成功する可能性が高い」
「行動を消去することは困難だが、別の行動に置き換えるのは簡単なのかもしれない」と述べています。
これらの結果を踏まえると、新年の目標を立てる時はある行動を禁止したり頻度を減らす目標ではなく、「何をするのか」という目標に言い換えることができないかを考えてみるのが良いかもしれません。
たとえば「お酒を飲むのを控える」なら「水を1日1リットル飲む」に、「スマホを見る時間を減らす」なら「本を読む時間を増やす」という目標に置き換えるのです。
そうすることで目標達成の行動が増え、長期にわたって行動が維持される可能性が高いと言えるでしょう。
参考文献
Want Your New Year’s Resolutions to Stick? Flip the Script
https://www.psychologytoday.com/us/blog/the-athletes-way/202012/want-your-new-year-s-resolutions-stick-flip-the-script
元論文
A large-scale experiment on New Year’s resolutions: Approach-oriented goals are more successful than avoidance-oriented goals
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0234097
ライター
AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしていました。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。