ジンバルワークのBカメとしてGFX100 II決定
ドラマ本編の撮影は、メインカメラにARRI ALEXA 35、サブカメラにAMIRAで、LogC3とLogC4の違いはあるものの、星子氏との協議の結果、いけると判断したという。
一方、MVはメインカメラにAMIRA、サブカメラに富士フイルム GFX100 IIで撮影。シネマ業界でもっとも支持されているARRIとミラーレスカメラ最大手の富士フイルムのまったく土俵の異なるブランドを組み合わせで撮影が行われた。
岸氏:
ALEXA LFとGFX100 IIの組み合わせで撮られたMVやショートムービーをネットで見る機会があり、その仕上がりがかなり良くてびっくりしました。これいけるじゃんって。これをきっかけとなりGFX100 IIの実機テストを行うことになりました。
ドラマの撮影と同じ昼と夜の条件下で、F-Log2での撮影は初めてでした。富士フイルムが持つ画の懐かしさもありつつ、かつノイズの少なさで、とりあえずISO 5000までいけるのを確認できました。
ドラマ本編のグレーディング中に星子さんと一緒に試して、富士フイルム用のLUTを作って運用してみました。実際に確認してみたところ問題はありませんでした。良好な結果で、サブカメラはGFX100 IIに決定しました。
同時に、夜や昼の街を登場人物の歩行がメインのMVのため、歩行シーンの撮影には、DJI Ronin 2を使ったジンバルワークが決定していた。しかし、Proteus 2XとAMIRAでは全長サイズの問題で対応できない。そこで、規定の全長サイズに収まる候補として浮上したのが富士フイルムGFX100 IIだった。
岸氏:ドラマ本編のBカメのレンズはLAOWAさんの「OOOM」と「Ranger」、MVのメインカメラとサブカメラにはLAOWAのアナモフィックレンズ「Proteus 2X」を使用しました。全編Proteus 2Xでの撮影です。
ただ、Proteus 2Xはかなり重量と全長のあるレンズです。AMIRAと三脚の組み合わせでは対応できますが、ジンバルワークでAMIRAにProteus 2Xをつけると最大水平長を超えてしまいます。
ただ、もしかしたらGFX100 IIなら対応できるのではないとひらめきました。試しにRonin 2と組み合わせてみたところ、対応は可能。レンズが長くてマットボックスをつけると結構ギリギリでしたが、サブカメラとして決定となりました。
今回のMVはすべてのカットで4K/60p収録が前提でしたが、4K/60pに対応した「Premistaモード」で対応可能でした。撮影後の横幅が2倍になりますが、2倍になるからこそ良い部分を使うことができました。
岸氏:
GFXの魅力の一つに消費電力の良さがありました。USB Type-C端子から最大15Whの外部給電が可能でした。これはかなりのアドバンテージだと感じました。
今回はGFXをDJIのRonin 2に載せましたが、Ronin 2本体からD-TAPでカメラに給電を行います。試しに外付けの5V3AバッテリーをRonin 2のハンドルに取り付け、直接カメラに給電させてみました。外部バッテリーを一度も変更なく、まる1日運用することができました(5v3a、20000mahのバッテリー)。
しかも、Ronin 2の消費が抑えられます。地味ですが、実際に使ってみてかなり良いと思えた部分でした。
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失われた映画用フィルムのルックを復活させたい
さらに星子氏の映画用フィルムへの思いもGFX100 IIの選定を大きく後押しした。星子氏は、以前から今は発売してない富士フイルムの映像用フィルムのルックをデジタルシネマで再現したいと考えていた。GFX決定は、この夢への実現のきっかけにしたいという思いもあった。
星子氏:
私は以前、「男はつらいよ」の49作4Kデジタル修復のアーカイブチームに参加する機会がありました。寅さんの作品は45作品程に富士フイルムが使われています。まさに富士フイルムの歴史を辿ったようなシリーズで、ネガスキャンを全て目を通しました。
武田鉄矢さんが出演しました第21作「男はつらいよ 寅次郎わが道を行く」には、映画用カラーネガフィルム「A」が使われていますが、素晴らしいの一言です。
アーカイブするために新しくスキャンしたものをデジタルグレーディング、プリグレーディングをしましたが、見たことない発色性を実現していました。デジタルで感じたことない発色性であり、それがいやらしくなく、濃くきちんと色が出ている。その感覚を忘れることはできません。他の方に聞いても、「A」はファンが多いです。
富士フイルムの映画用フィルムにはA250などいろいろ種類があります。色管理システム「IS-100」が登場した時に、いろんなフィルムストックが揃えられればと思っていました。改めてきちんとピュアな富士フイルムさんが提供する、昔のフィルムのカーブを再現したものを何とかしてLUT化できないかなという思いがありました。
これはもう絶対的な資産です。海外には真似できない資産だと思います。私は富士フィルムのルックがとても好きなので、うまくデジタルシネマの中でも資産を活かしながら、さらに上のステップのルックが作れないかなと思いました。
岸氏:「ARRIに対抗する日本のメーカーは、富士フイルムしかない」と、かなり前から星子君と話題にしていました。
フィルムの長年の蓄積や実績は富士フイルムさんしか国内にはありません。そこで新しいカメラを使って、メイド・イン・ジャパンの新しい道みたいなものを切り開く、一つのモデルケースになればと思い、GFXを選びました。
今回使用して、その可能性ははっきり見えてきました。AMIRAと混ぜても全然誰も違いはわかりません。