昔から手紙や祝電には、言葉以上にその人の思いが込められていると言われる。特に誕生日を祝う手紙の文言には、現在の関係だけでなく将来的な関係への思いも表れるものだ。
北朝鮮の朝鮮中央通信が、ロシアのプーチン大統領の72歳の誕生日に際し、金正恩総書記が祝電でお祝いのメッセージを伝えたと報じたのは10月8日のこと。同通信によれば、祝電には「今後も続く我々の再会と同志的な絆は、新たな全面的発展の軌道に乗った朝ロ(ロ朝)親善と戦略的協力関係の万年の土台をさらに強固にし、地域と世界の平和、国際的正義の守護に積極的に貢献することになる」と綴られ、正恩氏が改めて両国における友好関係の強化を強調したと報じている。
もちろんこれは2人だけのプライベートなやり取りではなく、あらかじめ発表することを織り込み済みで書かれたメッセージなので、文脈からは言葉の奥まで図りすることはできない。しかし正恩氏は、6月のプーチン氏の平壌訪問を機に、両国関係が「自主と正義の実現を共通の理念とする不敗の同盟関係、百年大計の戦略的関係」に格上げされたとしており、今回、ウクライナ侵攻に対しても「勝利と栄光の道に導くと信じている。ロシアの軍隊と人民の正義の偉業に対するわれわれの全面的な支持と連帯性を改めて確言する」と、改めてロシアを全面的に支持することを全世界にアピールする形になったのは事実だろう。
一方、プーチン氏に対する祝電と対照的だったのが、中朝国交樹立75周年を迎えた10月6日、正恩氏が中国の習近平国家主席に送った祝電だ。北朝鮮ウォッチャーの話。
「正恩氏は、今年の習主席の誕生日(6月15日)には祝電を送っていませんが、昨年の古稀(70歳)での祝電にもすでに『友好』『連帯』といった表明がなかったことで、両首脳の不協和音が噂され始めていた。そして今年に入り中国側による北朝鮮の密輸取り締まり強化や輸出制限などもあり、両国関係のさららなる悪化が伝えられるようになった。そんな背景もあり、国交樹立70周年で習主席に送られた祝電では『尊敬する総書記同志』としていたものが75周年では『尊敬する』が省かれている。ここに正恩氏の習主席に対する現在の気持ちが表れていると言っていいでしょう」
しかも、プーチン氏は単に72歳の誕生日を迎えただけで区切りの年齢であるわけでもない。そんなところにも、3国間の関係が如実に出ているというわけだ。
「今回、プーチン氏の誕生日に送った祝電の中で、正恩氏は始めと終わりに、プーチン氏を『最も親しい同志』と呼んでいる。これは異例なことで、かつて正恩氏が同じ文面で2度もそうした表現を使ったことは、おそらくはないはず。それほど正恩氏が6月にロシアと結んだ実上の軍事同盟『包括的戦略パートナーシップ条約』における軍事面での協力強化に期待を寄せているということです」(同)
いま、北朝鮮は米国や韓国を威嚇すべく、何としても核兵器とミサイルシステムを完成させたい。これまで莫大な国家予算をつぎ込み、新たなミサイルシステムの製造や核兵器の小型化を急いできたが、それでもロシアには到底及ばないことから、喉から手が出るほどその技術がほしかった。
「昨年9月にロシアを訪問した正恩氏にプーチン氏は、北朝鮮の人工衛星開発支援を約束したと伝えられます。つまり、もはや正恩氏の気持の中には、中国との関係強化云々などはなく、とにかくロシアとの関係を強化したいという思いがある。それが、祝電の内容にも反映されたということでしょう」(同)
果たして、そんな濃厚な誕生日祝電を受けたプーチン氏はいま、どんな心境なのか。
(灯倫太郎)