10月13日、3歳牝馬のクラシック三冠レースの最終戦となる秋華賞(GⅠ、京都・芝2000m)が行なわれる。春のクラシックで活躍した馬に加えて新興勢力も出揃い、にぎやかなメンバー構成となったこの一戦の行方を占ってみよう。
桜花賞(GⅠ)を優勝し、オークス(GⅠ)で2着に入ったステレンボッシュ(美浦・国枝栄厩舎)と、そのオークスを制したチェルヴィニア(美浦・木村哲也厩舎)。春のクラシックを制圧した2騎が無事に三冠目に出走してくる。
両雄ともオークス以来、約5か月ぶりのぶっつけ参戦だが、関東を代表するトップトレーナーが手掛ける優駿だけに、久々の実戦に不安を持つ必要はないだろうが、チェルヴィニアの木村調教師は、「春シーズンは万全の健康状態で走らせることができなかったので、この秋はその点に腐心した」と述べていることは知っておいてもいいだろう。あくまで筆者の目を通しての見方だが、チェルヴィニアの最終追い切りは惚れ惚れとするようにシャープな動きを見せていたと感じた。
好調な気配をみせたチェルヴィニアは桜花賞のときと違い、美浦トレセンで追い切りを実施した。一方のステレンボッシュは、国枝調教師が「これまでの2回とも上手くいっている」(阪神ジュベナイルフィリーズ2着、桜花賞1着)という栗東トレセンに入厩し、最終調整の期間を過ごしている。
冷静に見るならば、このクラシックホース2頭が抜けた存在であることは確かだろう。国枝調教師などは、「能力のある馬で、GⅠをもうひとつは取りたいと思っている」と自信をにじませて、はっきり口にしているほどだ。
ただ、筆者は主役のステレンボッシュとチェルヴィニアには、いささかの不安を感じている。京都の内回りという逃げ・先行有利の小回りコースにおいて、2頭がともに差し・追い込み脚質である点に引っかかっているからだ。
ステレンボッシュのGⅠレースにおける最終コーナーでの位置を見ると、阪神ジュベナイルフィリーズが10番手、桜花賞が8番手、オークスが12番手。同じくチェルヴィニアは、珍しく前目につけた桜花賞が5番手(13着に大敗)、一転して控えたオークスが10番手だ。悠長に外を回っていたのでは間に合わない京都の内回りコースでは、取りこぼしも有り得ると筆者は見ている。
では、どの馬がワンチャンを狙えるのか? 訊かれるまでもなく、答えは前々で競馬ができて、しかも勢いのある「先行」馬である。 ピックアップしたいのは、クリスマスパレード(美浦・加藤士津八厩舎)、タガノエルピーダ(栗東・斉藤崇史厩舎)の2頭だ。
クリスマスパレードはキタサンブラック産駒の青鹿毛馬。デビュー2連勝を飾ったものの、フローラステークス(GⅡ、東京・芝2000m)で4着に敗れてオークスへの出走を断念。その後、統一グレードの関東オークス(JpnⅡ、川崎・ダート2100m)で9着に敗れたあと、夏の休養に入った。秋シーズンは秋華賞トライアルの紫苑ステークス(GⅡ、中山・芝2000m)で始動。ここを2番手から抜け出して優勝し、同時に秋華賞への優先出走権を確保した。
前記、紫苑ステークスのレース内容が出色だった。1000mの通過ラップが58秒8という速めのペースを逃げ馬の直後で追走。苦しくなった逃げ・先行馬をよそに直線の坂下で先頭に躍り出ると、8番手から伸びてきたミアネーロ(美浦・林徹厩舎)をクビ差抑えて優勝。4回中山の開幕週だったとはいえ、走破タイムはコースレコードとなる1分56秒6を叩き出したから驚く。豊富なスピード能力と、前へ行ったら容易にバテないスタミナは父譲り。小回りコースは彼女にとって絶好の舞台になるはずだ。
もう1頭の有力馬であるタガノエルピーダは、父キズナ、母タガノレヴェントン(母の父キングカメハメハ)という血統。デビュー2戦目に牡馬相手の朝日杯フューチュリティステークス(GⅠ、阪神・芝1600m)に出走し、勝ったジャンタルマンタル(牡3歳/栗東・高野友和厩舎)から0秒2差の3着に健闘した。3歳初戦のチューリップ賞(GⅡ、阪神・芝1600m)で4着に敗れて桜花賞を断念。次に臨んだ忘れな草賞(L、阪神・芝2000m)では道中4番手から第4コーナーで先頭という強気の競馬で、2着を2馬身半差で突き放して勝利をものにした。オークスでは先行したものの、直線でズルズルと後退して16着に大敗。これについて、斉藤調教師は必ずしも体調が万全でなかったと述懐している。
秋の始動戦となったローズステークス(GⅡ、中京・芝2000m)は馬体重が前走比プラス12キロとやや余裕残しの状態ながら、勝ったクイーンズウォーク(栗東・中内田充正厩舎)から0秒3差の4着とし、同調教師はこのレースを「3~4コーナーの手応えは、馬場(稍重)のこともあったのか、あまり良くなかったですが、直線ではかなり伸びてくれましたので、少しずつ(調子が)戻っているのではないかと思いました」とコメントしている。
次いで、「最近は3コーナーから4コーナーでズブいのが少し気がかりですが、京都は3コーナーから下り坂もありますし、直線も平坦で、この馬にとってはいい条件なのではないかと思います」と話し、コース設定にも光明を見出している。2走前の忘れな草賞のときのように積極的な競馬ができれば、直線でアッと言わせる走りも可能なのではないか。 さて、ステレンボッシュとチェルヴィニアを主力と見るのは当然として、その他の注目馬も挙げておきたい。
ローズステークスを力強い差し切りで制したキズナ産駒のクイーンズウォークは、ひと夏越しての成長が著しい。桜花賞(0秒6差の8着)、オークス(0秒4差の4着)とGⅠになると頭打ちの感もあったが、秋初戦で見せた終いの伸びはひときわ目を引いた。加えて、2月のクイーンカップ(GⅢ、東京・芝1600m)で見せた末脚の切れが戻れば、主力級と遜色ないレースも可能だろう。
ドゥラメンテ産駒のミアネーロは、3月のフラワーカップ(GⅢ、中山・芝1800m)の勝ち馬。GⅠ初挑戦となったオークスではレースグレードの差を感じさせて14着に大敗した。しかし秋初戦の紫苑ステークスでは、中団の後方から鋭い脚を使ってタイム差なしの2着に突っ込んで秋華賞への優先出走権を獲得。こちらも休養を挟んでの成長を感じさせるレースを見せた。たくましさを身に付けての変わり身が見込める、怖い存在だ。
7月のクイーンステークス(GⅢ、札幌・芝1800m)で1、2着となったコガネノソラ(美浦・菊沢隆徳厩舎)とボンドガール(美浦・手塚貴久厩舎)は、斤量のメリット(51㎏)に恵まれた感があって評価を下げた。
淀の舞台に集結した精鋭15頭で争われる牝馬クラシック最後のタイトル。主力の順当決着か、それとも――。
文●三好達彦
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