9月21日に発生した石川・能登地方の記録的豪雨は、地震からの復興を目指していた地域に甚大な被害をもたらした。年初の震災でダメージを受けた堤防は決壊し、いたるところで街が水没─。専門家は言う。「これは対岸の火事ではない」。もはや日本列島全域が水害のリスクを背負っている。
震災の爪痕が残る石川県輪島市で線状降水帯が発生し、観測史上最大規模の豪雨が記録された。市内を走る塚田川が氾濫し、泥水が仮設住宅を飲み込むと、浸水の高さは1メートル以上に達した。そして町のいたるところで土砂崩れが発生、能登町や珠洲市も同様の被害を受け、10月4日時点で死者14名、行方不明者1名を数えている。
しばしば亜熱帯化が指摘される日本では、東南アジアのスコールのようなゲリラ豪雨が頻発し、全国的に35度以上の猛暑日も珍しくなくなった。
今の日本はもはや、異常気象大国なのだ。「能登の豪雨もその一例」と語るのは、異常気象や気候変動の専門家である三重大学・立花義裕教授だ。
「欧州の学者には、『今現在、日本が一番激しい気象の変化が起きやすい国だ』と言う人もいるほど。これまでの気象・気候の常識は、今後通用しなくなっていくでしょう」
そう語る立花氏はまず、能登地方でかつてないほどの豪雨が発生したメカニズムを解説する。
「豪雨をもたらす線状降水帯は、海面温度の上昇によって増えた〝海からの水蒸気〟を、梅雨前線や秋雨前線が引きつけて積乱雲を大量に作り出すことで発生します。今回、能登半島には秋雨前線が停滞していました。つまり、地球温暖化・猛暑で温まった海からの水蒸気と秋雨前線が、たまたま能登半島上空で合流してしまったのです」
今年2回目の被災となった能登半島の住民は、言葉を濁さずに言えば、単純に「不運」だったとも言えるのだ。だが、この豪雨には人災的要素も影響しているという。
「1年半ほど前から、世界中の海面温度が地球温暖化の影響で上昇傾向にあります。中でも日本周辺の海面温度が断トツで高い。世界的に見たら約1度の上昇幅ですが、日本は5度くらい上がっている。その顕著なエリアの1つが日本海でした。つまり能登の豪雨の下地は、間接的に人類が作り上げたものでもある」(立花氏、以下同)
JAXA(宇宙航空研究開発機構)が発表する気象衛星ひまわりの観測データを見ると、豪雨発生3カ月前、6月21日の段階では、能登半島周辺の海面水温は20〜22 度程度。それが7月には26〜27 度、8月には30度を超えていた。日本海の暖流である対馬海流が北上するにつれ、より「能登の海」が温められていたのだ。加えて被害の最大化には、今年1月の地震で地盤が緩んで土砂崩れの危険性が増し、堤防の強度が下がっていたことも関係しただろう。
「日本海の他には、太平洋側の静岡県沖、三陸沖から北海道沖にかけて、著しい海面温度の上昇が見られます。こちらは黒潮(日本海流)の影響が大きい。黒潮は海流の中でも特に流れが速いので、昨今の猛暑も手伝って、海流の温度が下がる前にどんどん北上してしまう。つまり猛暑になれば海面温度の高いエリアが広がる。そうすればその周辺で雨が降りやすくなる。猛暑と豪雨は連動しているのです」
さらに言えば、
「ここ数年続く日本の猛暑ですが、来年以降もほぼ確実に続いていくと考えられます。私は〝冷夏〟の年は、今後なくなると考えています」
毎年が猛暑、そして猛暑と豪雨はセットである。目を背けたくなる現実だが、日本人は今後「観測史上最大レベル」の豪雨と常に向き合わねばならないのだ。
(つづく)