上位3頭の”したたかな心理戦”が火花を散らした淀の舞台。チェルヴィニアの成長力+陣営の盤石プランが牝馬二冠に結実【秋華賞】

 10月13日、3歳牝馬三冠の最終戦となる秋華賞(GⅠ、京都・芝2000m)が行なわれ、単勝1番人気のチェルヴィニア(美浦・木村哲也厩舎)が中団から鋭く差し切って優勝。オークスに次ぎ、二冠目を手にした。

 2着には5番人気のボンドガール(美浦・手塚貴久厩舎)が、3着には2番人気に推された桜花賞馬ステレンボッシュ(美浦・国枝栄厩舎)が入る穏当な結果となった。一方、4番人気のミアネーロ(美浦・林徹厩舎)は伸びたものの6着に終わり、3番人気のクイーンズウォーク(栗東・中内田充正厩舎)は最下位の15着に沈んだ。

 レース結果をひと言で表すならば、「春に活躍した実力馬が、そのまま秋にスライドした」ということになるだろうか。優勝したチェルヴィニアは、桜花賞こそ流れに乗れないまま13着に大敗したが、オークスでは、先に抜け出したステレンボッシュを中団後ろから豪快に差し切って快勝。いい脚を長く使えるスピードとスタミナのマリアージュとも言える中長距離能力の高さは天下一品だった。

 同じくステレンボッシュは、桜花賞を大外一気の追い込みで圧勝し、オークスもチェルヴィニアにこそ差されたが、いったんは馬群を抜け出して先頭に躍り出ての2着は、あらためて能力の高さを窺わせるものだった。

 またボンドガールにしても、掛かり気味になったNHKマイルカップ(GⅠ)こそ17着に大敗しているものの、ニュージーランドトロフィー(GⅡ)が2着、古馬と相見えたクイーンステークス(GⅢ)が2着、秋華賞トライアルの紫苑ステークス(GⅡ)が3着と、勝てないまでも常に勝ち負けに加わる力量上位の存在だった。
  レースではこの3頭の手綱をとるジョッキーたちのしたたかさが際立った。

 戦前の予想通りにセキトバイースト(栗東・四位洋文厩舎)が逃げたが、これが暴走気味のラップを積み重ねて、ぐんぐん後続を引き離す。そこから10馬身ほど離れた2番手にはクリスマスパレード(美浦・加藤志津八厩舎)が続き、3~5番手付近にタガノエルピーダ(栗東・斉藤崇史厩舎)、ラヴァンダ(栗東・中村直也厩舎)、コガネノソラ(美浦・菊沢隆徳厩舎)という伏兵陣が追走。それを前に見ながら、チェルヴィニアは中団の7~8番手、ステレンボッシュは10番手、ボンドガールは12~13番手付近を進んだ。

 セキトバイーストが刻んだラップは、1000mの通過が57秒1というマイル戦並みの速さ。10馬身ほど離れた2番手のクリスマスパレードで、ようやくミドルペースになろうかという乱ペースだった。

 これを読み切っていたのが結果として上位に入った馬たちだった。

 直線へ向いてセキトバイーストを交わしクリスマスパレードが先頭を伺おうかとしたそのとき、後ろに控えていた有力馬が一気に進出。なかでも、ばらけた馬群の中から突き抜けてきたチェルヴィニアの鋭い伸びはひと際目立ち、一気に先頭を奪う。そこへボンドガールとステレンボッシュも伸びてきたものの、最後まで脚色が衰えなかったチェルヴィニアがボンドガールを1馬身3/4差を突き放して優勝。能力の違いを見せつける圧勝劇を演じて見せたのだった。 チェルヴィニアのクリストフ・ルメール騎手は、「今日はいいポジションが取れて、ずっと自分のペースで走ることができました。ペースが速かったのもちょうど良かった。直線でスペースができたとき、とてもいい反応をしてくれました」と、すべてがプラン通りに進んでの勝利だったことを喜んだ。

 チェルヴィニアは春の桜花賞で大敗した際には栗東トレセンに入厩して本番に臨んだが、慣れない環境に落ち着きを欠いていたという。それを考慮して、美浦で追い切ってからの輸送競馬に切り替えた木村調教師の判断もトップトレーナーらしく優れた対応だったと言えるだろう。

 レース後、オーナーである(有)サンデーレーシングの吉田俊介代表は、次走はジャパンカップ(GⅠ、東京・芝2400m=11月24日)を目標にすることを明言。あらためて強さを見せたオークス馬がどのような戦いをするか興味は尽きない。
  春はマイル路線を進んでいたボンドガールは、距離不安への対応として後方を進んで終いの脚に賭けるという武豊騎手の導きに応えて2着に好走した。同騎手は、「やりたい競馬はできた。良い感じで走ってくれました」と満足げにコメント。これからマイル路線に戻れば、古馬相手にもいい競馬ができるだろう。

 ステレンボッシュは外枠(14番)とゲートでの出遅れが響き、後方から進んで直線はかなり外を回らざるを得なかった。それでも3着に食い込んだのはポテンシャルの高さあってのことだろう。

 最下位に沈んだクイーンズウォークは、ゲートで躓いたところで終わってしまった印象。3コーナーで強引に位置を押し上げたが、直線では手応えをなくしていた。パドックでもややテンションが高かったが、それがこのアクシデントの導火線になっていたのかもしれない。

 筆者が推奨したクリスマスパレードとタガノエルピーダはそれぞれ5、7着に終わった。両馬とも先行力を生かして見せ場を作ったが、彼女たちを上回る有力馬には歯が立たなかった。それでも2着のボンドガールと比べると、クリスマスパレードは0秒2差、タガノエルピーダは0秒3差と、そう負けているわけではない。GⅡ、GⅢ戦に出てくれば勝ち負けに加われることだろう。

取材・文●三好達彦

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