今年8月に発覚したヤニック・シナー(イタリア/世界ランク1位)のドーピング問題を受けて同選手から解雇された理学療法士のジャコモ・ナルディ氏が、イタリアメディア『Corriere Della Sella』のインタビューで一連の騒動について初めて沈黙を破った。
既報の通りシナーは3月の「BNPパリバ・オープン」におけるドーピング検査で、提出した検体から低濃度ながら禁止物質の「クロステボル」が2度にわたり検出。シナー側は禁止物質が体内に入った理由について、ナルディ氏が自身の傷を治療するためにクロステボル入りのスプレーを肌に塗り、その手でシナーにマッサージ等を施したためだったと説明していた。ちなみにそのスプレーをナルディ氏に提供したのは、当時シナーのトレーナーを務めていたウンベルト・フェラーラ氏(同じく解雇)だったとされている。
シナーには暫定的な出場停止処分が科されたが、異議申立てが認められすぐさま処分は解除。その後の調査でも、違反が故意ではなく過失もなかったと判定され、シナーの資格は停止されずに決着したとされていた。
ところが世界反ドーピング機関「WADA」はシナーを無実と裁定した第三者機関「ITIA」に対し、「過失がないという判断は適用規則と照合した上で正しいものではない」として、9月28日に不服申し立てを決行。これについては現在スポーツ仲裁裁判所(CAS)で審議が行なわれているとのことだ。
「ドーピング問題に対しての一般人の解釈からすると、私だけが悪かったような感じになっている」―そうナルディ氏が語った通り、確かに騒動発覚後はイタリアで例のスプレーを入手したとされるフェラーラ氏よりも、実際にマッサージを行なったナルディ氏を批判する声が多く上がっていた印象だ。しかしあくまでも禁止薬物の検出は偶発的なものだったとした当局の判決から、「自分だけが悪いわけではない」とナルディ氏は主張する。
続けてナルディ氏は現在のシナーとの関係性について、以前と変わらず良好だとコメント。一方、SNSでは誹謗中傷を受けるなど散々な目に遭ったとし、現状ではインスタグラムのアカウントも非公開にしていると明かした。
「ヤニックはとても親切だった。特にレティシア(第1子)が生まれた時は、他のチームメンバーと同じように手紙までくれたよ。ヤニックとは今も友好的な関係だ。騒動後は特に、私を個人的によく知っている人たちが私への愛情を示してくれた。しかし、SNSでは醜いメッセージで侮辱された。なぜなら、今回の騒動で起こったことは、少々悪い出来事だったからだ」
ことの詳細を整理してみると「自分だけが悪いわけではない」のはその通りかもしれない。しかしWADAの提訴によって騒動が再燃している今、ナルディ氏が再び責任を追及される可能性は否定できない。今季最大のハイライトとなるであろうシナーのドーピング問題。果たしてどのような結末を迎えるのだろうか。
文●中村光佑
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