10月10日、ラオスの首都ビエンチャンで中国李強首相との会談に臨んだ石破茂首相。

 会談で石破氏は、日本産水産物に対する輸入停止措置撤廃発表を受け、輸入の早期回復の実現、さらには、東シナ海での中国の活発な動きや、中国で拘束されている日本人の早期解放等々、両国間にある諸問題について言及した。

 だが、石破氏が会談で一段と強調したのは、中国広東省深セン市で勃発した日本人男子児童刺殺事件についての事実解明と、「悪質で反日的なSNS投稿の取り締まり」を含めた在留邦人の安全確保だった。

 今回の児童刺殺事件もさることながら、中国では日本人をターゲットにした事件が頻発しており、一方、日本国内でも靖国神社への落書きなど、中国における反日感情の高まりを物語るような事件が起きている。その要因について、中国の現状に詳しいジャーナリストが解説する。

「理由の1つに、『愛国主義教育』を強化する中国の学校教育による影響が大きいとする意見があります。『反日の元凶』と言う識者もいる。ただ、もう1つの理由として挙げられるのが、コロナ禍で起きたゼロコロナ政策による中国経済の低迷です。これによって国民の不満が増大しましたが、その批判をかわすために、政府による日本産水産物の輸入停止などの『日本叩き』が行われたとされています。結果、国民の抱えるフラストレーションが『反日』に向けられたと…」

 実際、経済の低迷による影響は甚大だ。中国では地方政府が弱体し、治安当局の予算が大幅に減少したと言われている。

「そのため、日本政府がいくら在留邦人の警戒を高めろと要望したところで、現実問題として、治安維持にあてる原資がない。結果、治安のさらなる悪化が懸念されています。今後も日本人の安全が担保される保証はないと言われているのです」(前出・ジャーナリスト)

 先の会談で石破氏の要請に対し、李首相は、「新しい時代にあった建設的で安定した中日関係を構築すべく努力したい」と述べるにとどまっている。

 ことあるごとに「日本を守る、国民を守る」と力説している石破氏の外交デビューにしては、はなはだ心許ない成果だったようだ。

灯倫太郎

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