予想以上の相乗効果をもたらした三笘薫&中村敬斗の共存。“ダブルドリブラー”の破壊力、森保采配は称賛に値【W杯最終予選】

 2026年北中米ワールドカップ・アジア最終予選の序盤で3連勝と破竹の勢いを見せていた日本代表。埼玉スタジアム2002で一度も負けていない“お得意様”オーストラリアからも白星を手にできるという見方が根強かった。

 ところが、今回の日本は5-4-1の強固な守備ブロックを敷いてきた相手に攻めあぐね、なかなか効果的なチャンスを作れない。前半はシュート数6対1と圧倒しながら決めきれず、後半に谷口彰悟(シント=トロイデン)がまさかのオウンゴールで1点を献上してしまう。

 このシーンは谷口がミッチェル・デューク(町田)に競りに行った後のリスクマネジメントに課題があったというべきだが、いずれにしてもビハインドを背負ったのは事実。ホームで黒星だけは絶対に回避しなければいけなかった。

 そこで森保一監督が採ったのが、三笘薫(ブライトン)を左シャドーに上げ、中村敬斗(S・ランス)を左ウイングバックに入れるという“秘策”だった。

「敬斗をアウトサイド、薫を一つ前に出したところは、(三笘が)前半からインテンシティの高い戦いをして疲労があったし、よりフレッシュに上下動でき、ゴール前にも入っていける敬斗をアウトサイドに置きました。薫は受けるところがアウトサイドになっても、そこからまた個の突破、周りを活かすこともできると思ったので、この配置にしました」
 
 指揮官が狙いを説明した通り、ドリブラーの2人を左サイドに並べることで個の打開力アップ、連係向上も期待できる――そんな確信があったからこそ、実戦でほぼやっていない形にトライさせたのだろう。

 その成果は直後から色濃く出た。

「縦を意識していたんですけど、うまく三笘選手が僕にフリーの状態を作ってくれた」と中村は振り返る。

 際たるシーンが76分の同点弾。田中碧(リーズ)から左の大外で背番号13がボールを受けた瞬間、三笘は対面にいたルイス・ミラーを身体でブロック。中村がドリブルでえぐっていけるスペースを作った。そして中村の鋭いクロスが相手のオウンゴールを誘った。

「1人目を抜いた時に、三笘選手が中にいて、それで引き連れてくれたし、後ろから追いかけてくるような選手もいなかったんで、2人で崩した場面だと思います」と殊勲の男も満面の笑みを浮かべていた。

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 同点後も中村はグイグイと積極的な仕掛けを披露。三笘がそれを的確にサポートするシーンが目についた。相手にしてみれば「三笘がドリブル突破をしてくるかもしれない」という警戒心があるから、どうしてもマークが分散する。「ドリブラー×ドリブラー」の配置というのは、想像以上の相乗効果をもたらしたのは間違いない。

「今日の中村選手は普段、三笘選手がしてるようなプレーをしていたと思いますし、三笘選手も『シャドーにはこういうプレーをしてほしい』ということをやっていたと思う。ああやってドリブラーとドリブラーを一緒に組ませてみるのも面白いのかなと。今日の2人は『はじめまして』だったと思いますけど、あれはあれですごく良かったですね」とベンチからその一挙手一投足を観察していた久保建英(レアル・ソシエダ)も刺激を受けた様子だった。

 膠着状態に陥ったゲームでは、意外な組み合わせや配置が突破口を開くことが往々にしてある。そういう意味で、今回の森保采配は称賛に値するだろう。

 実際、三笘のマークは試合を重ねるごとに強まっている。2022年カタールW杯の切符を獲得した22年3月のオーストラリア戦の頃は、まだ三笘はA代表デビュー間もなく、扱いもジョーカーがメイン。そこまで研究されていなかった。

 しかし、イングランドのプレミアリーグで実績を残し、日本のエース級になった今はブライトンでも代表でも複数マークがついてくるのが普通。本人もドリブル技術を磨き、より緩急をつけて敵をかく乱する工夫は凝らしているものの、1人では限界がある。
 
 それを打開する意味でも、今回のような似たタイプを併用し、お互いを活かし合うような関係性を構築するのは良いアイデア。それは10日に行なわれたサウジアラビア戦の後半の前田大然(セルティック)・三笘のコンビにも言えることだ。

 前回は今回ほど目に見える成果は出なかったが、今後も機を見てトライしていけば、得点につながる形が生まれる可能性も少なくない。

 三笘、中村、前田はいずれも左ウイングバックと左シャドーをこなせる人材。前田に至ってはトップにも入れる。「最近はセルティックでもやっていない」と本人は話していたが、プレーは可能だ。

 そういった3人の能力を有効活用しながら、三笘のドリブル突破力だけに依存しない左サイドの多彩な形を作っていければ、日本の攻撃バリエーションは広がるはずだ。

 今回の三笘・中村というダブルドリブラーの共存を一過性のものにせず、今後も要所でトライしていくこと。それを森保監督には改めて求めたい。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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