10月14日に行なわれたUEFAネーションズリーグ第4節、イタリア代表はホームのスタディオ・フリウリ(ウディネ)でイスラエル代表を4ー1で倒してグループ首位の座を守り、プレーオフ進出と2026年ワールドカップ欧州予選のシード権(ポット1)獲得に大きく近づいた。
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相手が中東における戦争当事者のイスラエルということもあり、当日のウディネは、イスラム過激派によるテロを警戒した厳重な警戒体制が敷かれ、またその中で反イスラエル・親パレスチナのデモ(参加約1500人)が行なわれるなど、物々しい雰囲気に支配された。約2万5000人収容のスタジアムにキャパシティーの半分以下の1万2000人強しか入らず、空席が目立っていた理由もそこにあった。
とはいえ、観客数の少なさを除けば、スタジアムの雰囲気は通常通り。イタリアのルチャーノ・スパレッティ監督は、これまでの3試合と同じく「インテルモデル」の流動的な3バックシステムを継続採用し、4日前のベルギー戦からメンバーを3人だけ入れ替えた布陣でこの試合に臨んだ。スタメン(システムは便宜上3ー5ー2で表記)は以下の通り。
GK:グリエルモ・ヴィカーリオ
DF:ジョバンニ・ディ・ロレンツォ、アレッサンドロ・バストーニ、リッカルド・カラフィオーリ
MF:アンドレア・カンビアーゾ、ダビデ・フラッテージ、ニコロ・ファジョーリ、サンドロ・トナーリ、フェデリコ・ディマルコ
FW:マテオ・レテギ、ジャコモ・ラスパドーリ
GKにヴィカーリオが起用されたのは、正GKジャンルイジ・ドンナルンマがベルギー戦の遅延行為でイエローカードを受け、出場停止にリーチがかかったのが理由のひとつ。11月に行なわれる敵地でのベルギー戦(14日)、ホームでのフランス戦(17日)を前に万が一を考えて保険をかけた格好だ。開催地のウディネがヴィカーリオの地元であることも、判断の一因になったかもしれない。
中盤の底からゲームを作る「レジスタ」には、ここまでの3試合で大きく頭角を現したサムエレ・リッチに替えてファジョーリが起用された。長年このポジションを担ってきたジョルジーニョの「後継者人事」は、このチームが2026年の北中米W杯を目指すうえで大きな鍵のひとつ。その第一候補としてのリッチにある程度のメドが立ったいま、その座を争うべき立場にあるファジョーリがどこまでやれるか、実戦の場で見てみたいというのは、指揮官の立場からすればごく自然な考えだろう。
前線でCFレテギとペアを組むパートナーには、ベルギー戦の退場で出場停止となったロレンツォ・ペッレグリーニに替えて、9月のイスラエル戦でも先発したラスパドーリが選ばれた。172センチと小柄ながらゴールセンスと戦術感覚に優れ、ビルドアップや仕掛けの段階から周囲と連携して局地的な数的優位を作り出し、さらにフィニッシュにも絡んでいくプレーの幅広さが持ち味だ。ビルドアップにはあまり絡まず2ライン(相手DFとMF)間で前を向いたところから持ち味を発揮するペッレグリーニと比べ、よりダイナミックでプレーエリアが広く、ボールに絡む頻度も高いタイプだ。
このメンバーでスタートした試合は、立ち上がりからイタリアがボールを支配して主導権を握った。相手がコンパクトな3ー4ー2ー1のミドルブロックで中央を固めて来たこともあり、最終ラインから直接、前線両サイドに進出したウイングバック、あるいは前線中央のレテギにロングパスを送り込んで、一気に局面を進めようとする場面が目についた。
この試合最初の決定機となった14分のレテギのシュートも、右CBディ・ロレンツォから裏に抜け出したレテギへの長い縦パスから生まれたもの。その2分後にもディ・ロレンツォの縦パスに、今度は前線まで上がって裏に飛び出したカラフィオーリが合わせてシュートを放った。
さらに18分にも自陣の深い位置からバストーニがレテギに送り込んだロングボールをきっかけに、その落としを受けたラスパドーリからの展開で最後は前線に走り込んだレテギがシュート、続いて19分にはラスパドーリのスルーパスに合わせて裏に走り込んだトナーリがシュートと、縦への速い展開から立て続けに決定機を作り出した。
5分間で4度の決定機を作り出したこの波状攻撃は、いずれもフィニッシュに精度を欠いて得点には結びつかず。しかしイタリアはその後も攻勢に立ち、41分には後方からのビルドアップで敵陣深くまで押し込んだところで、トナーリがファウルを受けてPKを奪取。これをレテギが決めてようやく先制に成功した。
このポジティブな展開の中で、唯一パッとしなかったのが、レジスタとしての力量を試される立場にあったファジョーリだ。ビルドアップ時には第2列中央に位置を取って第1列(=3バック)からのパスを引き出して局面を前に進める役割を担ったが、小さな動きでマークを外してパスを引き出したうえで、ターンしたり3人目を使って前方に展開することが上手くできず、むしろプレスを受けて危険な形でボールを奪われる場面を再三繰り返した。
質の高い縦パスを前線に通す場面もあったものの、全体的には期待値を下回るパフォーマンスに留まったファジョーリは、残念ながら最初のテストは通過できず。前半だけでベンチに下がり、後半はリッチにレジスタの座を譲ることになった。
後半もイタリアが押し込む展開は変わらなかった。54分には左サイド深いところからラスパドーリが蹴ったFKに、控えのドンナルンマに代わってキャプテンマークを巻いたディ・ロレンツォが頭で合わせて2ー0とリードを広げた。
ところが66分、珍しくイスラエルにCKを与えたところから、キッカーのモハマド・アブ・ファニが直接ゴールを狙ったボールに対し、GKヴィカーリオが目の前に立った相手にブロックされて飛び出すことができず、誰も触れないままゴールインする不本意な形で1点差に詰め寄られるアクシデントが発生する。
しかしイタリアは動揺することもなく、72分には辛抱強いポゼッションで押し込んだ後、こぼれ球を拾っての二次攻撃からディマルコがクロスを折り返すと、フラッテージがダイレクトで合わせて3ー1と突き放した。
さらに79分、同じ左サイドから今度はその6分前に途中出場したデスティニー・ウドジエがクロスを入れ、後方から走り込んだディ・ロレンツォがそれをねじ込んでこの日2得点目。4ー1と試合の行方を決定づけた。
ちなみにこのウドジエのクロスは、同時に途中出場してA代表デビューを果たしたダニエル・マルディーニが、左大外を縦にドリブル突破したところから生まれたもの。祖父チェーザレ(故人)、父パオロに続く3世代の代表キャップは、イタリアサッカー史上過去に例がない。スペインでは、マルコス・アロンソ(セルタ)、マルコス・ジョレンテ(アトレティコ・マドリー)の2人が実現している。
試合はそのまま4ー1で終了。90分を通してのボール支配率65対35、シュート数17対5(枠内8対2)という数字が示す通り、両チームの実力差をそのまま反映した順当な内容、そして結果だった。
イタリアにとっては、4日前のベルギー戦(ただし11人で戦った前半40分まで)に続いて、後方からじっくりパスをつないでの押し上げと長い縦パスによる速い展開を効果的に使い分け、とりわけピッチの幅を効果的に使った連携から繰り返し決定機を作り出したという点で、収穫の多い試合だったと言える。
とくに大きいのは、夏のEURO2024以来、過剰なほどの批判に晒されてきたディ・ロレンツォが2得点のほかにも、それ以上にビルドアップにおける右WBカンビアーゾとの連携、そして安定した守備で説得力のあるパフォーマンスを見せ、完全復活をアピールしたこと。
さらに、試合を重ねるごとに周囲との連携が向上し、フィニッシュのみならずポストプレーなどを通したビルドアップへの貢献度も高まって、「9番」らしい風格が備わってきたレテギの成長ぶりも特筆すべきだろう。今シーズン移籍したアタランタでジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督の薫陶を受け、センターフォワードとして一皮むけた印象だ。
大きな失望をもたらしたEURO2024からわずか4か月で、まったく別のチームに生まれ変わりつつあるアッズーリ。11月の代表戦には、ニコロ・バレッラ、フェデリコ・キエーザといった主力クラスも戻ってくるはず。
10月の2試合でデビューを果たしたニッコロ・ピジッリ、マルディーニ、ロレンツォ・ルッカといった若手、そして現在故障離脱中のジョルジョ・スカルビーニ、ジャンルカ・スカマッカまで、陣容にさらなる厚みをもたらしうる戦力にも事欠かない。このネーションズリーグ、そして25年3月から始まるW杯予選を通じて、どこまで成長して行くかがますます楽しみだ。
文●片野道郎
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