中国による台湾への威嚇が止まらない。中国軍が10月14日、台湾をほぼ取り囲む海域と空域で、空母も展開させる大規模軍事演習を行った。台湾国防部によればこの日の軍事演習には陸海空軍とロケット軍などが参加。台湾本島の東部沖には中国海軍空母「遼寧」を配備。さらに過去最大規模となる、軍用機や戦闘機125機を飛ばすなど、中国軍による嫌がらせと言っていい演習は日本時間の午後7時まで続いたとされる。
今回の中国による軍事演習は台湾の頼清徳総統が10日の演説で「中華人民共和国は台湾を代表する権利はない。国家の主権を堅持し、侵犯や併合を許さない」と述べたことに対する反発とみられているが、中国外務省の毛寧報道官は14日の記者会見で「『台湾独立』と台湾海峡の平和は相いれないものだ。『台湾独立勢力』の挑発は必ず反撃に遭う」として、「1つの中国」の原則を受け入れない台湾の頼政権を改めて強くけん制した。
近年、台湾への嫌がらせがとみにエスカレートしている中国だが、実は「中国当局による嫌がらせ」は台湾だけにとどまらず、日本で暮らす中国人にも及んでいることが10日、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(HRW)の調査報告書により明らかになった。全国紙社会部記者の話。
「HRWでは今年6月から8月にかけ、過去に中国政府のゼロコロナ政策を批判したり、少数民族への人権侵害を訴える活動などに参加したことがある在日中国人25人に対し聞き取りを実施したのですが、うち16人が中国当局から、なんらかの脅迫や嫌がらせを受けたことが判明したというんです。中には、中国で暮らす親族と電話で通話中、いきなり現地警察官を名乗る男が電話に出て『家族がどうなっても知らないぞ』と脅されたり、あるいは、かつて中国当局が掲げた『ゼロコロナ』政策への抗議活動を行ったことがある人は、在日中国大使館から当時在籍していた日本語学校を通して、活動中止を迫られたこともあったようです」
中国当局による執拗な嫌がらせの実態に対しHRWは、「日本政府は実態をきちんと把握し、国境を越えた人権弾圧を許容しないと明確にすべき」と訴えている。
とはいえ、なぜ、中国当局は国境を超えた日本で暮らす中国人にまで執拗に圧力をかけてくるのか。その理由を、前出の社会部記者はこう分析する。
「世界各地に中国の秘密警察が散らばっていることはよく知られる話ですが、近年、特に取り締まりが厳しくなっきているのが日本なのだとか。その理由には、以前、民主派活動家の拠点だった香港が、2020年の国家安全維持法成立により、壊滅状態になったことが挙げられます。結果、当局により徹底糾弾されることになった彼らが、拠点を日本に移し始めた。加えて、再三嫌がらせを受け続ける台湾も、緊張関係をこれ以上エスカレートさせてはいけない、とのムードから中国に対する言論活動は慎重になりつつあるのが正直なところです。そんなことから、香港を拠点にしてきた活動家や台湾の知識人などが、日本で研究会や講演会などを頻繁に開催するようになった。そこで中国当局の目が日本にいる中国人たちに向けられてきたというわけなんです」
当局の意に沿わなければ、自国民といえど、どんな手を使ってでも、威嚇し、脅迫し、言論封殺まで仕掛ける。そんな恐ろしい中国当局の目が今、日本在住の中国人に向けられている。
(灯倫太郎)