日本への観光客数が増加し、今年は9月までに約2688万人が訪れました(日本政府観光局より)。コロナ禍前の2019年と比べ10.1%増加し、京都、浅草、鎌倉など有名観光地は言うに及ばず、以前は外国人が興味を持たなかったような地方の場所も海外からの観光客で賑わっています。国際コミュニケーション英語能力テストTOEIC Programを運営するIIBCは、外国人客に「何か手助けをしたい」「おもてなししたい」と考える人々を対象に、「I’m Omotenable! プロジェクト」の実証実験をスタートさせます。
鎌倉でのおもてなし 外国人観光客と地元住民をつなぐプロジェクト
日本の人気観光地、鎌倉には、神社仏閣、海岸、飲食店、さらにはアニメやマンガの聖地巡礼を目当てに多くの外国人観光客が訪れます。しかし、言語の壁や文化の違いにより、外国人観光客が道に迷ったり、荷物が多すぎて困ったり文化の違いで戸惑う場面も少なくありません。そんな中、「I’m Omotenable! プロジェクト」は、外国人観光客に積極的に手助けしたい日本人と、助けを求める外国人との架け橋となるべく立ち上げられました。
プロジェクト名の「Omotenable! (オモテナブル)」は、「おもてなし」「できる」「サステナブル」の三つの要素を組み合わせた造語です。外国人観光客に対して親切に接したいという日本人の気持ちが、持続的に広がってほしいという願いが込められています。
IIBC企画部の松田隆氏は今回の実証実験の流れをこのように説明しました。
「まず、今回一般の方から募集した参加者に事前にTOEICよりも簡単な英語学習初級・中級者向けに開発された『TOEIC Bridge Test』を受けていただきました。そのテストスコアをご自身で可視化していただいたうえで、実際に市中の外国人に話しかけて手ごたえを感じていだきます。そして実際の経験から自信や改善点を見つけてもらい、リアルのおもてなしに繋げていくという形になっています」
IIBCは2011年から10月19日をTOEICの日と定めて毎年いろいろなイベントを企画しています。今回の実証実験プロジェクトはその日に合わせてスタートします。
参加者の声 おもてなしへの挑戦
事前のスタートアップとして行われたこのプロジェクトには、9人の参加者が集まりました。彼らはそれぞれの生活の中で英語を学び、TOEIC Bridge Testに挑戦しました。
修了証とバッジを手に笑顔の山内宏幸さん
鎌倉でカフェ「こまち茶屋」を経営する山内宏幸さん(48歳)は、英語が得意ではないものの、「外国人観光客に、鎌倉の魅力や自分たちの料理の特徴をもっとうまく伝えたい」という思いから参加を決めました。試験勉強の時間が限られていたものの、テストを受け、いざスコアを見た感想を聞くと、
「試験なんて久しぶりでどうかと思っていたけど、点数がついていてよかったな、という感じです」
そう話して苦笑して修了証とバッジを受け取っていましたが、来店した外国人に料理の説明を試みる姿や自分たちで作った折り鶴を渡し笑顔で接する態度は、親しみやすさとおもてなしの心が溢れていました。
外国人観光客に折り鶴を渡す山内さん(右)
また、横浜在住の砂賀聖亜さん(20歳)は、今回が初めての実践的な英会話の経験でした。緊張しながらも、外国人観光客との交流を楽しみ、
「簡単な英語でのやり取りでもなかなか伝わらないこともあった。もっと英語で伝えられるようになりたい」 と、さらなる成長を目指していました。またTOEICの結果を受けて砂賀さんはこう話します。
修了証を受け取る砂賀聖亜さん(右)
「ゼロの気持ちからやっとスタート地点に立ったような気持ち。僕が住んでいる地域も海外の人が多いので、英語で話しかけられることが多いです。これを機会に困っている外国人がいたら積極的に話しかけていこうと思います」
映像関係の仕事をする前橋佑樹さん(27)は今回のプロジェクトの印象をこう語りました。
「前から英語は勉強としてはそんなに好きではなかったのですが、外国人とコミュニケーションをとるのは好きでした。それが功を奏したのか、思っていたより点数が高かったのでまずは一安心しています」
彼は参加者のなかでも一番積極的に外国人に声をかけていました。
満面の笑みで道案内をする前橋佑樹さん(中央)
「修了証といっしょにもらったこの(Omotenable)バッジ。これがあるのとないのではだいぶ気持ちが変わってきます。普通に話しかけると警戒されたり変な顔をされると思うけど、バッジをつけていると安心してもらえる。言ってみればお守りみたいですね」
バッジを手にする前橋さん(右)
「アイキャッチなこのマークが、少しでも外国人の力になりたい人の後押しを担って、外国人が『話しかけてみようかな』と思えるような、そんなお互いの橋渡しの役目をできればいいなと考えています。いずれはマタニティマークやヘルプマークのように認知が広がっていけばいいな、とも考えています。そのためにはこの取り組みを続けていかないといけないなと考えています」IIBCの松田氏は今回の実証実験の成果をこう話しました。
鎌倉市観光協会の期待
左からIIBC松田隆氏、鎌倉市観光協会進藤勝氏
鎌倉市観光協会事務局長の進藤勝氏は、鎌倉の観光状況について次のように語りました。
「鎌倉は海や山、歴史的な観光資源が豊富ですが、外国人観光客への対応が追いついていない現状があります。今回のOmotenable! プロジェクトを通じて、地域の住民も外国人観光客に対して積極的に関わりを持っていただけるようになることを期待しています」。
鎌倉は観光地としての多様性を広げつつありますが、外国人観光客とのコミュニケーションはまだ課題が残っています。 例えば公共施設の混雑やマナー・慣習の違いなどで外国人に対して苦手意識を持っている人もいます。そうした中で、地域住民が外国人を手助けし、日本の文化やマナーを丁寧に伝えることで、相互理解が深まり、訪日外国人のさらなる増加と地域活性化につながるとしています。
今後の展望 全国展開へ
IIBC松田氏は「去年は浅草での取り組みを成功させ、今年はさらに一般の方にも参加してもらえるようプロジェクトの裾野を広げました」と語ります。今後は鎌倉に続き、京都や富士山など日本全国の観光地でプロジェクトを展開していく予定です。
「外国人観光客が増加する中、少しでも困っている方々に手を差し伸べたいという気持ちを大切に、今後も活動を続けていきます」と意欲を見せました。
「I’m Omotenable! プロジェクト」は、英語のスキルに自信がない人でも、外国人観光客とのコミュニケーションを楽しむきっかけを提供することで、日本の「おもてなし文化」を広め、持続可能な形で発展させていく取り組みとして期待が高まります。