北朝鮮が韓国との友好の象徴だった南北を結ぶ道路と鉄道を爆破したのは10月15日のこと。その直前の14日と15日に、全国の青年同盟員や学生を含む140万人以上の若者が、朝鮮人民軍への入隊・復隊を志願した、と朝鮮中央通信が伝えた。
むろん、大本営発表なので真偽のほどは定かではないが、米韓との関係に緊張が高まった際には決まって「愛国的入隊志願者の急増」をアピールし、プロバガンダとして利用してきた北朝鮮も、今回は「戦争が勃発すれば、韓国は地図から抹消されるだろう。戦争を望むなら、われわれはその存在に終止符を打つ意思がある」と威嚇をエスカレートさせていることから、両国がのっぴきならない状況になっていることは明らかだ。
一方、北朝鮮はロシアに3000人とも1万人ともされる兵士を派遣している。16日に放送された韓国のニュース番組では、これらの兵士が「建設労働者」として派遣された元特殊部隊所属兵士で、身分を偽り、モンゴル系「ブリヤート人」の身分証で活動していることを韓国当局が把握していると伝え、波紋が広がっている。
報道によれば、3000人の北朝鮮人労働者がロシアに派遣されたのは、今年4月。しかし、彼らはいずれも昨年末から今年初めまでの間に軍を退役した元特殊部隊所属の兵士で、北朝鮮が外貨獲得のためロシアに送り込んだものと韓国政府関係者は見ているようだ。
「退役軍人とはいえ、北朝鮮兵士はロシア軍兵士に比べはるかに戦闘能力が高い。彼らが所属するのは、ロシア軍第11独立空挺突撃旅団にある『ブリヤート特別大隊』と呼ばれる部隊で、ロシア軍からモンゴル系先住民族であるブリヤート人の身分証を発給され、ウクライナで活動しているといわれます」(北朝鮮ウォッチャー)
ブリヤート人とは、ロシアやモンゴル、中国に住むモンゴル系民族だが、バイカル湖の西側にあるブリヤート共和国はロシア連邦を構成する共和国の一つであり、生活もロシア化され、ロシア人とのミックスも多い。
プーチン大統領は2022年9月、こうした少数民族に対しても動員令を発動。徴兵を避けるため多くのブリヤート人がロシアから脱出したものの、途中で捕まり、強制的に戦場に送られて亡くなった者も数多くいたという。そんなブリヤート人たちの身分証を偽造して北朝鮮兵士らに与えているということなのか…。
「ブリヤート共和国で現在、首長を務めるツィデノフ氏はもともとロシアの官僚だった人物。モスクワに戻って出世したいという人たちにとって、地方での実績づくりは必須。そのため、どんな無理難題を押しつけられようが、プーチンに逆らうことはできない。結果、それが少数民族らの悲劇につながっているんです」(同)
消息不明だったり、すでに死亡しているブリヤート人の身分証が偽造され、北朝鮮兵士に使われているとしたら…。戦争に人権もなにもないことを、改めて思い知らされるばかりだ。
(灯倫太郎)