10月20日、クラシック三冠の最終戦となる菊花賞(GⅠ、京都・芝3000m)が行なわれる。
今年は日本ダービー(GⅠ)を制したダノンデサイル(牡3歳/栗東・安田翔伍厩舎)が参戦する一方、皐月賞(GⅠ)を勝ったジャスティンミラノ(牡3歳/栗東・友道康夫厩舎)は天皇賞(秋)(GⅠ)へ進むことを表明していた(のちに屈腱炎を発症したため休養)。また、ダービー3着のシンエンペラー(牡3歳/栗東・矢作芳人厩舎)はご承知のとおり欧州へ遠征したため欠場と、いささか薄いメンバー構成となった印象があることは否めない。
【動画】ドゥレッツァが制した2023年菊花賞 そうした状況のなかで、上位人気に推されるのは、まずダノンデサイル、皐月賞2着のコスモキュランダ(牡3歳/美浦・加藤士津八厩舎)が一番手。次いで、セントライト記念(GⅡ、中山・芝2200m)を圧勝したアーバンシック(牡3歳/美浦・武井亮厩舎)神戸新聞杯(GⅡ、中京・芝2200m)を逃げ切ったメイショウタバル(牡3歳/栗東・石橋守厩舎)、強い競馬で条件戦を2連勝してきた「上り馬」のヘデントール(牡3歳/美浦・木村哲也厩舎)らがそれを追う、という構図になっている。
いつもはレース内容を中心に有力馬の取捨をご紹介しているが、今年の菊花賞出走予定の有力馬には、ある不安なデータを持つものが多いため、まずその点からフィルタリングしてみたい。
一般に競走馬は、短距離型ほど重量馬が多く、逆に中長距離型はスリムなアスリート体形の軽量馬が多いとされている。その根拠は、爆発的なスピードで一気に走り切るスプリンターは筋肉量の差がものを言うため、いきおい重量馬に有利となり、長距離戦は自らの体重がスタミナを奪う割合が少ない軽量馬が向くと説明される。
たとえば代表的なステイヤーとされた2頭、メジロマックイーン、ライスシャワーの馬体重を見てみる。ここでは便宜的に500㎏で線を引いて、それ以上が大型馬と考えることとする。
メジロマックイーンは馬体を大きく見せていたため大型馬との印象が強いが、実際は1990年、菊花賞制覇時の体重は484㎏。1991・1992年の天皇賞(春)連覇時は、482㎏、490㎏と、いずれも500㎏以下だった(ちなみにライスシャワーの2着に敗れた1993年の同レース時には500㎏だった)。
メジロマックイーンはそれでも480~500㎏あったので立派な押し出しで軽量馬とは言い難いが、もう1頭のライスシャワーは正真正銘の小型・軽量馬である。1992年の菊花賞制覇時は438㎏。1995年の天皇賞(春)に優勝したときでも442㎏と、鋭利な刃物を想起させるような馬体の持ち主であった。
そこで菊花賞について、昨年までの過去10年の3着以内の馬で、500㎏以上の馬がどれだけいるかを調べてみた。すると驚くべきことに、1~3着までを500㎏以上の大型馬が占めた2015年(530㎏のキタサンブラック、500㎏のリアルスティール、506㎏のリアファル)以外、3着以内に入った年は一回も無かったのである。
今年の有力馬には、不思議なことに500㎏を超える大型馬が目に付く。ことしの出走予定馬に前述の傾向を当てはめてみると、ダノンデサイル(日本ダービー時504㎏)、コスモキュランダ(セントライト記念時504㎏)、アーバンシック(同510㎏)の3頭がこのフィルターに引っかかる。
もちろん、始動戦をひと叩きされて馬体が絞れたり、輸送で体重を落とす馬もいるため、当日には500㎏を割り込んでくるケースがあるかもしれないが、17日に発表された調教後の馬体重によると上記の3頭とも500㎏をオーバーしているため(ダノンデサイルは526㎏、コスモキュランダは510㎏、アーバンシックは515㎏)、ここでは3頭を思い切って”対抗”か”押さえ”にまわしてみたい。
本稿で主力に抜擢したいのは、470~480㎏という菊花賞へ臨むには”理想的”なサイズとスタイルの持ち主、ヘデントールだ。
8月17日の日本海ステークス(3勝クラス、新潟・芝2200m)の内容が圧巻だった。前半は1000mの通過が61秒9という超スローペースの3番手を進み、直線半ばで楽々と先頭に躍り出ると一気に後続を突き放し、最後は手綱を抑えたまま2着に3馬身半の差を付けて圧勝。後半の1000mは57秒5という上がりの競馬で後続をぶっちぎったレース内容は、菊花賞のペース傾向に向いているのは間違いなかろう(自身の上がり3ハロンは33秒6)。ちなみに昨年の菊花賞を制したドゥレッツァも日本海ステークスをステップに大輪を咲かせている。
ヘデントールの木村哲也調教師は共同インタビューで、「もともと期待が高かったなかで、8月のあの時期に(日本海ステークスを)勝ち切れたのは、菊花賞を見据える上では、良い意味でギリギリの時期に条件戦を勝つことが出来たなと思います。菊花賞に向かうにあたって(レース間の)時間ももらえるので、前走勝った時点で菊花賞に向かう価値はあるのかな、と思っていました」と期待語り、父ルーラーシップ、母の父ステイゴールドという血統も「普段から調教しているなかで、特にスタミナの面では両親から良いところを貰って、かなり良いものを持っていると思います」と自信をのぞかせている(発言は要旨)。
それなりに人気にはなりそうだが、デビュー以来ずっと2000m以上のレースを使い続けられた中長距離の申し子、ヘデントール。外の16番枠に入るという試練もあるが、GⅠ初挑戦となる”上がり馬”に一発を期待したい。
〔追記〕
穴人気する気配があるショウナンラプンタ(牡3歳/栗東・高野友和厩舎)も押さえにはマークしたいが、神戸新聞杯(2着)時の馬体重が530㎏という名うての大型馬なので、評価は割り引いておきたい。
また、土曜日の京都は雨のち曇りの天気予報が出ているが、日曜日にも馬場の渋化が残るなら、重上手で、最終追い切りで抜群の動きを見せたメイショウタバルが一気に浮上する可能性も。したがって馬券的な評価を一段階上げる必要がありそうだ(ちなみに同馬の神戸新聞杯時の馬体重は496㎏と、わずかながら500㎏を切っている)。
(10月19日筆)
取材・文●三好達彦
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