中後雅喜監督、中田浩二フットボールダイレクターが率いる新体制で再出発した鹿島アントラーズ。
10月19日のアビスパ福岡戦が初陣となったが、相手の堅守を崩しきれずにスコアレスドロー。今節は首位のサンフレッチェ広島、2位のヴィッセル神戸が揃って黒星を喫したこともあり、上位陣との勝点差は縮まったものの、福岡戦ではシュート5本と攻撃面で乏しい内容に終わったのは確かだ。
9日の始動から約2週間の準備を経て、迎えたホームゲーム。ランコ・ポポヴィッチ前監督のラストゲームとなった前節・アルビレックス新潟戦(4-0)で採用された3-4-2-1ではなく、福岡戦では伝統の4バックへ回帰。「我々が今までやってきた4枚をベースにしっかりやれれば結果が出ると考えた」と新指揮官は言う。
そのうえで、最前線に師岡柊生、右MFに藤井智也、左MFに鈴木優磨を据えるというサプライズ采配を披露。それが機能するかが、1つの大きな注目点だった。
「右で起点になって(左の)俺が仕留める形かなと思った」と鈴木は狙いを持って入ったが、右の藤井は「右ではあんまりドリブルの形がないので、どうしたらいいのか分からなかった」と戸惑いを隠せなかった。
そして師岡も「自分は大学で前目のポジションをやっていたけど、当時は2トップ。誰かが競ってくれれば裏も抜けられるし、やりやすくなるんだけど…」と急造1トップに難しさを感じつつ、必死にプレーしたという。
こうしたギクシャク感が響いたのか、前半のシュート数は3本だけ。決定機と言えるのは、40分のFKからの知念慶のヘッド1本にとどまった。
膠着状態を抜け出すべく、ハーフタイムに藤井と樋口雄太を交代。続いて徳田誉を入れて最前線に配置し、師岡を右へ移動させ、同じタイミングで三竿健斗を右SBに起用した。
さらに終盤には今夏加入のターレス・ブレーネルを左MFに配置。今季リーグ戦出場ゼロだった舩橋佑をボランチで投入するなど、フレッシュな戦力も積極活用した。
だが、後半のシュート数は前半より少ない2本。合計5本と相手の7本を下回ったのだから、0-0というのもやむを得ない結果と言うしかないだろう。
「守備に関しては(相手が)怖いところもなかったし、失点ゼロはマストだった。でも攻撃は推進力を出せなかった」と植田直通も現状をズバリ指摘。中後新体制の鹿島は堅守の伝統は取り戻したものの、攻撃面の構築はまだまだこれからなのだ。
「ポポヴィッチは人と人とが関わりながら前進していくサッカーで、中さん(中後監督)はスペース見つけながらそこに走るとか、人が走ったところにスペースをどんどん作るサッカーだと思う。それが体現できたかって言われると、まだできてないのかな」と安西幸輝も現状を捉えていた。
前任者が目ざしたものと微妙に異なるスタイルにラスト5試合という押し迫った時期でチャレンジし、勝利という結果を出すのは、選手たちにとっては非常に高いハードルと言わざるを得ないだろう。
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そのうえで気になるのは、新体制が今季限りという点だ。福岡戦の後、中田浩二FDは「3人(中後監督、羽田・本山雅志の両コーチ)の体制は今年限り。ちゃんとシーズンを戦うとなると、経験のある監督、コーチが必要になってくる。まず3人には今季をしっかり戦ってもらって、その先の来季は新しい監督を迎えてしっかりとやっていきたいと思っています」と説明。中後監督だけは来季コーチに就任するというが、それ以外のスタッフは基本的に入れ替わることを明言したのだ。
となると、今やっているサッカーが来季に引き継がれるかどうかは全くの未知数ということになる。鈴木の左MFや師岡のトップ、三竿の右SBといったトライも“期間限定”になってしまう可能性が少なくないのだ。
もちろん選手はプレーの幅を広げた方がいいし、この経験が必ずどこかでプラスになるはずだが、来季の新指揮官やスタッフがかけ離れた要求をしてくることも考えられる。となれば、この数か月間の積み重ねは意味のないものになってしまう。それだけは回避しなければならないのだ。
この先、鹿島はどういうサッカーを目ざしていくのか。選手たちに何を求めていくのか。それを明確にし、示していくことが、中田FDに託された再重要タスクと言ってもいい。
本人もそれを自覚している様子だった。
「僕も10年近く、チームに関わっていろいろ見てますけど、クラブとしてどう戦っていくか、どういうスタイルでやるのかというのがないなと感じている。それは中長期的にやっていかないといけない。それが言語化できれば、見合った監督や選手を補強すればいい。
『アントラーズはこう戦う』『こういうサッカーをやっていく』というのがあれば、一貫したサッカーができる。まずはそれを作ることが大事」と中田FDは意欲を示した。
強化の仕事に携わって1年足らず。中田FD1人で全てをこなせるわけではない。鈴木満アドバイザーや石原正康強化担当、現場スタッフやOBの力を借りながら、迅速に方向性を打ち出すべき。新指揮官の招聘はそれを踏まえて進めるべきである。
次期監督就任が噂されている川崎フロンターレの鬼木達監督が仮に快諾したとしても、やはり方向性があって初めて具体的なチーム作りに着手できる。現体制が取り組んでいることを無駄にしないためにも、鹿島はビジョンや指針の策定を最優先に着手すべき。そこは中田FDに強く求めたいところだ。
いずれにしても、今の鹿島はまだJ1優勝もACLE圏内の2位以内も、その可能性が完全に消えたわけではない。それを手にするべく、クラブが一丸となって突き進むことが肝要だ。
11月1日の次戦・川崎戦では攻撃面の改善が見られ、点の取れるチームに変貌を遂げていることを期待したい。
取材・文●元川悦子(フリーライター)
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