元全米王者ティームが現役最後の大会を前に心境「プレーを見るのが楽しかった選手として記憶に残りたい」<SMASH>

 間もなく開幕する男子テニスのATP500シリーズ「エルステ・バンク・オープン」(10月21日~27日/オーストリア・ウィーン/室内ハードコート)を最後に現役から引退する元世界ランク3位のドミニク・ティーム(オーストリア/現289位)が、海外メディア『Tennis Majors』のインタビューに回答。2020年9月の「全米オープン」で悲願の四大大会初優勝を飾ってからも自分の人生は特に変わらなかったと苦悩を明かした。

 2011年にプロ転向を果たして以降、力強いストロークを軸とした攻撃的なテニスで活躍してきた31歳のティーム。18、19年の全仏オープンで準優勝すると、翌20年の全米でついにグランドスラム(四大大会)の頂点に立ち、名実ともにトップ選手としての地位を確立した。

 そんな彼の右肩上がりだったキャリアが一気に暗転したのは21年シーズンだった。同年6月の「マヨルカ選手権」(ATP250/芝)で右手首を負傷すると、そこから半年以上にわたってリハビリ生活を送ることに…。22年3月に実戦復帰を遂げてからは復調の兆しを見せていた時期もあったものの、結局以前のような強さは取り戻せず、今年5月に今季限りでの現役引退を発表。母国で行なわれるエルステ・バンク・オープンが最後の大会となる。

 約13年にわたるプロ生活において、全米優勝は自身にとって最大のハイライトだったとティームは語る。それが「自分を永遠に幸せにしてくれるだろうとか、人生を変えてくれるだろうと思っていた」そうで、「振り返るとそのことをあまりにも重要視しすぎていた」と後悔の念も抱いている様子だ。
 「永遠に幸せになれるなんていうのは幻想にすぎない。現実には何(の変化)もなかった。正直なところ、僕が20年後もツアーにいたとしても、僕がグランドスラムのチャンピオンだったかどうかは誰も気にしないと思う。でも全米優勝直後は自分ではそうは思えなかった。グランドスラムを勝たなければ、僕のキャリアは良くないものになり、常に何らかの疑念を抱くだろうと思っていた。当時は様々なプレッシャーもあって簡単な状況ではなかったけどね」

 その上でキャリア最大のタイトルを勝ち獲った直後にふと“気づいたこと”をこう明かした。「自宅に全米のトロフィーがあるのはとても素晴らしいことだが、結局それはただのトロフィーであり、人生を左右するものではない。今ではそう考えている。突然これに気づき、タイトルを獲得してから間もなくして、“永遠に幸せである必要はない”ということにも気づいた」

 そう語ったティームは最後に「どのように人に記憶されたいか?」との質問に「プレーを見るのが楽しかった選手として記憶に残りたい」と回答。「最も強調したいのは、それが他の選手のインスピレーションとして役立つことを願っているということだ」と締めくくった。

“ラストダンス”を迎えるエルステ・バンク・オープンに本戦ワイルドカード(主催者推薦)で参戦するティームは、初戦でルチアーノ・ダルデリ(イタリア/44位)と対戦。これを突破すると2回戦では共に切磋琢磨してきた錦織圭(元4位/現143位)と対峙する可能性がある。ぜひともティームと錦織の最後の対決が実現してほしいものだ。

文●中村光佑

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