キャラクターの造形が崩れる現象、いわゆる「作画崩壊」は、本来アニメファンにとって絶対に起こってほしくない事柄のひとつでしょう。しかしこれまでのアニメ史を振り返ってみると、作画崩壊によって話題を集め、視聴者の記憶にしっかりと刻まれた作品も少なくないようです。



1999年に公開された映画『GUNDRESS』劇場用ポスター

【画像】マヌケ面が愛おしい? こちらが長らくファンに愛され続けてきた昭和アニメの作画崩壊です(4枚)

未完成……なのにそのまま映画館で公開?

 アニメ作品の良し悪しを判断するポイントのひとつに、作画のクオリティが挙げられます。どんなに物語の脚本や声優の演技が良くても、作画が悪いと駄作の烙印を押されてしまいがちです。しかしなかには一周回って、ある意味「伝説」と化した作画崩壊アニメも存在しました。

 アニメ『家庭教師ヒットマンREBORN!』の作画崩壊は、最終回から10年以上経った今もなおネット上で語り草となっています。同作はマフィア組織をめぐるバトルマンガでありながら女性人気も高く、その理由のひとつにあったのが、「獄寺隼人」や「雲雀恭弥」、「山本武」といったイケメンキャラクターたちの存在です。

 しかし放送が始まったばかりの頃は作画がなかなか安定せず、イケメンたちも例外なく作画崩壊の犠牲者となりました。なかでも被害が著しかったのが、アニメ第5話「風紀委員長の退屈しのぎ」です。

 もはや同一人物とは思えない崩れっぷりから獄寺は「五話寺」、雲雀は「妖怪ワカメ」、山本には「ヤバ本」と名付けられ、ヤバ本に関しては「笑顔の山本がポケモンのタケシに似てる」「ポケモンのタケシにしか見えない」「ヤバ本は今すぐニビジムに帰れ」などと今なおファンの間でイジられ続けています。

 ちなみに各配信サイトで視聴できるのは作画をクオリティアップした修正版のため、五話寺やヤバ本たちに会うことはできません。今や伝説となった第5話の作画崩壊は、当時を知るファンたちの古き良き(?)思い出となっているようです。

 とはいえ『家庭教師ヒットマンREBORN!』程度の作画崩壊であれば、まだかわいいほうなのかもしれません。アイディアファクトリーの人気シミュレーションゲームをOVA化した『学園都市ヴァラノワール』の場合、いろいろな意味で作画崩壊が常軌を逸していました。

 まずキャラクターの造形が崩れているのはもちろんのこと、作中に登場するモブキャラたちは姿形をコピペしただけでした。例えば学校の教室には、コピペで量産された同じ顔の生徒たちがずらりと並んでいるのです。

 また街並みに関してもコピペ感が丸出しで、その家々も「専門学生の自主製作アニメ」「カラオケのPV並み」などと揶揄(やゆ)されるほどのクオリティでした。そのほか背景がフル3D、作中キャラがとにかく動かない、ゲームの使い回しシーンが多いなど、ツッコミどころを挙げたらキリがありません。

 そしてこれだけの手抜き感がありながら、同作は地上波で放送されていたわけではなく、OVAとして売りに出されていたというから驚きです。まさに伝説の作画崩壊アニメにふさわしい一作ではないでしょうか。

 作画崩壊が話題になったアニメは、TVシリーズや『学園都市ヴァラノワール』のようなOVAだけではありません。1999年に全国約40館の映画館で公開された『GUNDRESS(ガンドレス)』は、もはや作画すら完成していませんでした。

 というのも上映された作品は、セリフとキャラクターの動きが合っていない場面や線画だけで描かれたシーンなどが数多く見受けられ、ひと目で「未完成品」だと分かる異色の映像でした。

 おまけに制作サイドも同作が未完成品であることを自覚しており、来場者には「残念ながら不完全な形で公開することを納得の上で、ご入場ください」といった内容のプリント用紙が配られたそうです。そして後日、完全版ビデオを送るなどの対応がとられたうえ、そもそも未完成品を観たくないという人には前売り券代の返金が行われました。

 制作がギリギリになりながらも、なんとか公開日に間に合わせたアニメ作品は数多く存在しますが、未完成品のまま上映したのは後にも先にも『GUNDRESS』だけではないでしょうか。まさに「伝説」のひと言につきます。