足のケガを乗り越えた本玉真唯、東レPPO初戦敗退も「やっとスタートできたかな」と再出発を切る<SMASH>

 日本で開催されるWTAツアー最高グレードの大会「東レ パン パシフィック オープンテニストーナメント」(ハードコート/WTA500)本戦が、10月21日に東京・有明テニスの森で開幕。21日にはシングルス初戦が行なわれ、日本勢では予選突破の本玉真唯が世界68位のバーバラ・グラチェバと対戦。第2セットは互角の攻防を繰り広げたが、1-6、6-7(4)で初戦敗退となった。

 最後はフォアのストロークが、わずかにラインを割った。

 第1セットはスコアこそ1-6だったが、本人曰く「私のプレーは悪くなかった」。その感覚の正しさを証明するかのように、第2セットは終盤で追いつき、先にセットポイントのチャンスにも漕ぎつけた。ただどうしても、欲しい1本が取り切れない。試合が進むにつれ調子を上げたが、背を捕らえるには至らなかった。

 本玉がこの日に抱えたもどかしさは、今季の彼女を象徴するようでもある。昨年9月に練習拠点からコーチまで一新し、新たな環境で一段上のレベルのプレースタイルを標榜した。実際に結果も残し、飛び乗ったかに見えた上昇気流。

 だが5月末の「全仏オープン」(クレーコート/四大大会)時に、ふくらはぎに痛みを覚えたことで、状況が一変する。約2週間コートを離れ、翌月には復帰するも、「ウインブルドン」(芝コート/四大大会)予選も含め3大会連続初戦敗退。全仏後から現在までの戦績は、10勝16敗と苦しんできた。

 復帰後の本玉が感覚を取り戻すのに苦しんだのは、ケガの性質にもあったようだ。当初はふくらはぎの肉離れかと思われたが、どうも様子がおかしいと感じる。

「足の感覚がなくなり、つま先立ちすることもできなくなった」

 全仏オープンの大会ドクターに見てもらっても、「肉離れは考えにくい」と言われる。検査の結果、腰部に小さなヘルニアが見つかり、それが神経を圧迫したためだと推察された。
  足の感覚の消失は、「フットワークが強み」と自認する本玉のテニスを、根幹から揺るがす。

「リハビリをやってウインブルドンとかも出ましたが、本当に自分のプレーを取り戻すのに時間がかかり、やっと戻ってきたと感じたのが9月だった」

 それでも、「神経の問題なので、復活するまで半年かかる可能性もあった」ことを思えば、幸運な方だったとも感じている。

「理学療法士の先生や、トレーナーさんにもリハビリを見てもらったお陰で、ここまで本当に早く復活できた。まったく足の感覚がなくなってしまったので、走る私のプレーができなくなったが、こうやって元気にプレーできている」

 同時に、思うようにプレーできなかったその時期を、「身体を見つめ直す良い機会だ」と、ポジティブに捉えるようにした。トレーナーたちに「人間の身体ではない」とからかわれるなか、肩甲骨周りの可動域を広げるトレーニングも繰り返す。その結果、最近では「姿勢が良くなった」と周囲からも声を掛けられるという。

「毎日、欠かさずリハビリメニューをやって、人間の身体になりました!」

 そう言い、相好を崩した。

 ケガは「最悪のできごと」ではあったが、その経験を、文字通りのケガの功名にすべく前を向く。

「やっとスタートできたかな」と言う本玉は、「大好き」な有明コロシアムで再出発を切る。

取材・文●内田暁

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