『OSO18を追え“怪物ヒグマ”との闘い560日』藤本靖

◆『OSO18を追え“怪物ヒグマ”との闘い560日』文藝春秋/1700円(本体価格)

――OSO18(怪物ヒグマのコードネーム)を追うことになったきっかけは、なんだったのですか?

藤本「2021年10月、私たちのところに北海道釧路総合振興局がやって来ました。話の中で、被害が今後も増え続けるとのことから、捕獲を依頼されました。もともと協力は惜しまないつもりでしたが、酪農家が困っている話を聞き、決意が固まりました」

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――なぜOSO18は次々と牛を襲うようになったのでしょうか?

藤本「追跡していく過程で、不思議な点がありました。OSO18が潜伏していた付近や通ったと思われる場所で植物の食痕が一つもなかったのです。またエゾシカを山中へ不法廃棄していた人物から直接話を聞くと、その残滓をOSO18が食べていた可能性が浮上しました。毎日エサが与えられるという動物園と同じ状況が、誰も知らない山中にあったというわけです。OSO18は、エゾシカが山中へ廃棄されない時期に牛を襲っていたと考えられます」

目撃情報を精査し足取りを追跡

――戦いは560日間にも及びました。一番苦労した点はなんですか?

藤本「最初はOSO18がどこに潜伏しているのか、それを見つけだす作業に苦労しました。居場所のおおまかな特定ができた後は、不運にも天候により追跡ができず、時間が掛かってしまいました。OSO18は、一度捕獲檻で取り逃がしているため『檻は危険だ』ということを学習しています。そのため檻を使った捕獲が困難になってしまいました。広い地域を移動する一頭のヒグマを探し出すことは容易ではありません。過去のヒグマの目撃情報を精査し、通る場所を特定して監視カメラを設置するなどオンタイムでの足取りを追っていく作業にはかなり苦労しましたね」

――捕獲されたOSO18の「左の掌」が腫れていたといいます。その理由は?

藤本「誰かが仕掛けた違法な括り罠が右手に掛かり、鬱血により腫れていたのだと思われます。OSO18の捕獲された現場の近くには、罠を仕掛けていた痕跡が見つかっています。通常、括り罠はワイヤーを立ち木に留めアンカーとして使いますが、この場所では大きな古タイヤにワイヤーを縛り付けた物が使用されていたようです。OSO18は、タイヤを引っ張りながら山を越え、捕獲された場所まで移動したはずです。2日間にわたり同じ場所にOSO18がいたとのことでしたが、罠が何かに引っかかり、動けなくなっていたところを撃たれたのでしょう」

(聞き手/程原ケン)

「週刊実話」10月24日号

藤本靖(ふじもと・やすし)
1961年生まれ。標津町在住。NPO法人『南知床・ヒグマ情報センター』前理事長、現・主任研究員。自動車整備会社経営の傍ら、ヒグマ研究に取り組み、北海道大学大学院野生動物学教室で非常勤講師も務める。現在、標津町議会議員。