米中対立や台湾情勢など世界の分断はいっそう進んでいるが、これまでASEAN(東南アジア諸国連合)というと、地域的な協調、協力のイメージで分断とは無縁な枠組みと見られていた。加盟国は著しい経済成長を続け、日本企業にとってベトナムやタイ、インドネシアといった国々は進出先として欠かせず、日中関係の冷え込みにより、近年はこれまでの中国依存を見直そうとする動きが広がっており、その重要性は高まる一方である。
だが、世界の分断が進むように、今日ではASEAN内部でも亀裂が見られるようになった。例えば、ASEANの中でもフィリピンは特に中国への対抗意識を深めている。南シナ海では両国が南沙諸島や岩礁などの領有権を争ってきたが、最近は中国海警局の船舶がフィリピンの沿岸警備隊や漁船に向かって意図的に体当たりし放水銃を浴びせるなどの事件が相次いで発生、船の乗組員が負傷するケースも報告されている。そのためフィリピンは安全保障面で米国との関係を緊密化させ、中国と距離を置く姿勢を鮮明にしている。
反対に、ラオスやカンボジア、ミャンマーは、欧米より中国との関係を重視している。ラオスは長年、中国から多額の財政支援を受け、それによって各種のインフラ整備、都市開発を強化し、近年では首都ヴィエンチャンと中国南部の昆明を結ぶ高速鉄道が、中国からの資金援助によって開通した。カンボジアも中国から多額の資金援助を受け、交通や湾岸のインフラ設備が強化され、首都プノンペンを通る環状道路が習近平国家主席の名前を冠した「習近平大通り」と命名するなど、依存を深めている。またカンボジアの学校では中国語教育が広がり、英語よりも中国語を重視する動きも見られる。
一方で、インドネシアは米中がASEANを舞台に覇権争いを進めることに不満を募らせ、両国との関係を重視しつつも、日本や韓国ほど米国とベッタリな関係を作ろうとはしていない。
ただ、ASEANでは中国が最も影響力を持っていることは事実で、日本とは違い中国への警戒感は決して強くない。今後、ASEANで親中国家の数が増えれば、日本企業にとってASEAN市場でのビジネスはやりづらくなるだろう。
(北島豊)