台湾で5月に総統に就任した頼清徳氏が蔡英文前総統以上に中国を刺激するような発言を繰り返すなか、中国による台湾本土を包囲した軍事演習はこの5カ月で2回に行われた。蔡政権下の8年では1回しか行われていないことからも、台湾有事リスクは飛躍的に高まっていると言える。
一方、もう一つの潜在的リスクが朝鮮半島にある。北朝鮮では10月中旬、金正恩総書記が韓国を「敵対国」とし、それを明記した憲法改正を行い南北軍事境界線北側での道路と鉄道の爆破。国営中央通信は正恩氏が「悪縁を断ち切る」とまで述べたことを報じている。
韓国で尹錫悦政権が一昨年5月に誕生して以降、南北関係は急速に冷え込んでおり、正恩氏は昨年末、これまで目標としてきた南北統一の夢を放棄し、「敵国」と位置付ける路線変更を表明。今年1月には「自主、平和統一、民族大団結」といった憲法の条項を削除し、韓国を第一の敵国と見なす改憲を行うよう命じていた。
尹政権が日米との結束を強化しつつ北朝鮮に厳しい姿勢で臨めばこうなることは簡単に予測できたが、加えて米バイデン政権が正恩氏を完全に無視する姿勢を徹し続けてきたことも影響し、北朝鮮の韓国への対立姿勢はこれまでにない強いものとなった。以前は韓国を「南朝鮮」と定義し、同じ朝鮮ということでいつかは統一しようとの意識が正恩氏にはあったようだが、「韓国」としか呼ばなくなったことでその可能性もゼロになった。
そして、今後の行方で懸念されるのが「台湾有事」と「朝鮮半島有事」の同時発生だ。無論、北朝鮮がいま韓国に攻撃を仕掛ければ米国が関与してくるため、北朝鮮には全く勝ち目がない。しかし、台湾のほうで有事が発生すれば、米国はその対応に追われることになり、在日米軍だけでなく在韓米軍も台湾有事への関与を余儀なくされるだろう。となれば当然、韓国の防衛が手薄になることは避けられなくなる。相手は中国であり、台湾防衛が簡単な任務になることは考えづらい。
この最悪のシナリオは、正恩氏にとってはまたとないチャンスとなるだろう。
(北島豊)