本人も「初めての経験」と笑う“珍事”の末にツアー初勝利!岡村恭香が憧れの舞台でチャンスをつかむ<SMASH>

 WTAツアー初勝利は、サービスエースで決めたかに見えた。

 時速160キロ超えの好サービスが、相手の反応を許さずコートに刺さる。一度は、天を仰ぎ笑みを広げたが、線審の「アウト!」の声に、振り上げかけた拳を下げた。

 そうして迎えた、仕切り直しのセカンドサービス——。きっちり相手のボディに打つと、バックの打ち合いからフォアに展開。相手のフォアがラインを割ると、今度こそ勝利を確信し、左手の拳を小さく振り上げる。

 29歳の岡村恭香にとって「東レ パン パシフィック オープンテニストーナメント」(ハードコート/WTA500/以下東レPPO)本戦は、4度目の挑戦で初めて立った「子どもの頃から憧れた」夢舞台。対戦相手のヘイリー・バプティスト(アメリカ)からは、3度目の対戦でつかみとった初勝利だった。

 もっとも、岡村がバプティストと最後に対戦したのは、わずか二日前のことである。今大会の予選決勝で当たり、その時は岡村が3-6、5-7で敗れていた。

 本来ならこの時点で、初の東レPPO本戦出場もついえたはず。ただ本戦に欠場者が出たため、繰り上がり(ラッキールーザー)で巡ってきた僥倖だった。

 その本戦初戦で当たったのが、予選突破者のバプティストである。岡村も「長くなってきた私のキャリアの中でも、初めての経験」と小さく笑う珍事。同時に「直ぐに敗因を分析し練習して戦えるのは、幸いなこと」と、この奇妙な縁を好機ととらえた。
  ラッキールーザーでの出場権と、直近で敗れた相手との再戦。加えて岡村は今大会、もう一つ、自分に運気が巡ってきたと思える根拠があった。それが、予選のワイルドカード(主催者推薦)をもらえたこと。実は岡村、今大会へのエントリーをミスしたため、ワイルドカードなしでは予選出場もならなかったのだ。

「さっき、キャリアが長くなってきたと言っておきながら、恥ずかしい話にはなるのですが……」

 やや口ごもりながら、岡村が打ち明ける。つまりは、ランキング的には出られたはずが、ワイルドカードでなければ出場権利すらなかった状態。

「若い期待の選手がどんどん出てくるなかで、自分にはチャンスは巡ってこないだろうな」

 そう半ば諦めていた中で、得られたのが今回のワイルドカードだった。これまで、どこかで「自分には運がない」と思っていた岡村に、まるで帳尻を合わすかのように、次々チャンスが舞い込んでくる。

「本当に、プレーできるだけで幸せだ」

 そんな幸福感を胸に、岡村は本戦のコートに立ったという。 幸福感と同時に彼女がコートに持ち込んだのは、確固たる策だった。バプティストとの初対戦は、2020年1月の全豪オープン(ハードコート/四大大会)予選。その時は、相手のパワーに押し切られたが、「フットワークはあまり良くない」との印象もあった。

 そこで今大会の予選では、テイクバックの大きなフォアサイドに、早いタイミングでボールを打ち込む。その戦術が、奏功している手応えはあった。ただ、相手の返球の処理に課題を残したため、その部分を修正し挑んだのが、今回の再戦だ。自信を持つフォアの強打に、ドロップショットやスライスも織り交ぜる幅の広さは、それら取り組みの結実だろう。試合終盤は、ケガのためか相手の動きが落ちはしたが、やるべきことを完遂した岡村が、自力でもぎ取った白星だった。
  今大会で多くの幸運が巡ってきたのも、理由があってのことだろう。今季から岡村は、元世界24位の神尾米の門を叩き、練習環境も一新した。

「あと2年」と勝負の期日を区切り、「中途半端では終わりたくない。やめる前にトップ100に入りたい」と覚悟を決め、「どんなに厳しいことでも教えてください」と自ら神尾に頼み込んだ。その神尾たちからは「勝ちに行くためにも、勝ちにこだわりすぎない。練習したことを出す、ベストを尽くすとはどういうことかを教えてもらっている」という。

 “ラッキールーザー”は、敗戦を受け止めた者にこそ、巡ってくる幸運だろう。その資格を手に、岡村がさらなる幸運をつかみにいく。

取材・文●内田暁

【動画】「東レPPO」岡村VSバプティストなど大会2日目のハイライト!

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