『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(2013)、『心が叫びたがってるんだ。』(2015)、『空の青さを知る人よ』(2019)―“心揺さぶる”青春三部作を手がけた、監督:長井龍雪、脚本:岡田麿里、キャラクターデザイン・総作画監督:田中将賀の3人が贈る、オリジナル長編アニメーション映画最新作、映画『ふれる。』が絶賛大ヒット上映中です。

同じ島で育った幼馴染、秋と諒と優太。20歳になった三人は東京・高田馬場で共同生活をのシェアハウスで暮らし始める。BARでのアルバイト、不動産会社の営業、服飾デザイナーの専門学校生と生活はバラバラだが、いつも心は繋がっていた。それは島から連れてきた不思議な生き物「ふれる」がテレパシーにも似た謎の力で趣味も性格も違う彼らを結び付けていたからだ。お互いに触れ合えば口にしなくてもそれぞれの言葉が流れ込んでくる、そんな「ふれる」で結びついた3人の友情は、このままいつまでも続くはずだったー。「ふれる」の隠されたもう一つの力を知るまでは。

長井監督に作品へのこだわり、制作で印象的だったことなどお話を伺いました!

――本作、大変素晴らしかったです、ありがとうございました。ファン待望の新作となりましたね。

ありがとうございます。完成までに5年ほどかかってしまいました。コロナ禍ということもあり、は打ち合わせがあまり出来ずにシナリオに時間がかかりました。だんだんリモートでの会議の機会が増えて、慣れてきたのですが、最初の頃はなんかリモートだとなかなか決めきれなくて。これまでは岡田さん(脚本)、田中さん(キャラクターデザイン・総作画監督)、僕の3人で、ニュアンスで作りたいもの、やりたいことを擦り合わせていくことが多かったので、そのニュアンスの部分がうまく伝えられず、なくてっていう。なかなかもどかしかったです。

――話すという行為自体は同じなのに対面とリモートだと感覚が全然違いますよね。

そうなんですよね。あと、コロナ禍がどうなっていくか分からない時期でもあったので、このマスクをつける生活って一体いつまで続けるんだろう?、キャラクターもマスクをかける、つけるべきなのか?とか。今となってはマスク無しで決めて良かったなと思っています。、現実世界ではもうマスク着用はそれぞれの判断になっている中外しているのにキャラクター全員マスクをつけていることになっていたかもと思うと、ちょっと恐かったなとって。

――本作は「コミュニケーション」もひとつのテーマにしていて、長井監督の作品はどの作品にもこのテーマが根底にあると感じているのですが、本作で青年3人の友情を選んだことはどんな理由ですか?

岡田さんの書く脚本が、人同士のコミュニケーションの機微に特化していることも大きいと思います。今回は、大人の男性たちの物語に挑戦しようということから企画がスタートしています。前作までずっと高校生の話で、『空の青さを知る人よ』で秩父を舞台とした物語を一段落させたので、その次の段階の話を作ってみようと。「上京」というキーワードは割と早くから出てきて、高校生じゃない年代の子たちを描こうということは、前作からの対比にもなるかなと考えて、内容が固まっていきました。

――青春三部作と比べて物語の組み立て方に違いはありましたか?

作り方というのはあまり変わりませんが、考え方にが別の方向性というか、工夫が必要でした。男の子同士の友情ものって、アニメの場合はいわゆるBL作品などジャンルに特化した見え方をすることが多くて、そうではない描き方をするために手探り手触りしながらの部分を調整していました。

――なるほど、おっしゃるとおり絶妙な差がありますよね。本作は3人のキャラクターのバランスとリアルさも素敵でした。

最初にアルバイトをする秋の設定が決まって、3人をばらけさせて色々な環境に置いてみようという所からキャラクター設定が始まりました。諒は会社員、優太は学生に役割を振り分けて、「環境の違い」というのも一つのテーマでした。秋はバーで働いている設定なので、実際、バーに取材に行き、諒は地元の不動産屋さんを取材させてもらい、優太は、文化服装学院さんに取材のご協力をいただいて。個性的な服がたくさん飾ってあって、こういうところからデザイナーが生まれるんだなと感じ、面白かったです。そこで聞いたお話も作品中にフィードバック出来ていたらなと思います。

――「ふれる」というキャラクターも可愛らしいですし不思議な存在ですが、このデザインや設定についてはいかがですか?

最初にアイデアとしてあったのは、3人の考えていることが繋がっているという能力です。最初は3人を繋げる役目として、もう1人別の人物がいたんですけど、打ち合わせを重ねるごとに男の子3人にフォーカスしていこうということになり、その人物は外して、能力を司るものとして「ふれる」というキャラクターが生まれました。初期の方に書いてもらった田中さんのスケッチがみんなのイメージ通りで、何度かブラッシュアップしてくださったのですが、元々のものがイメージに近いねとなりました。ハリネズミに見えてもらっても困るし、難しかったと思います。

田中さんとは長く一緒にやっていますが、それこそ本作の内容の様になんとなく伝わっている感覚でやってきた部分も多くて。でも、もっとちゃんと話さないとダメだよねというのを再確認する仕事だったなと思います。

――物語の内容にも通じる制作過程だったのですね。前半と後半とのガラっと雰囲気が変わる部分にも驚かされました。

映画的に後半に盛り上がる部分を作ろうというのはもちろんあって、そのためにも日常パートをしっかりと描き、人間関係を積み重ねようと思いました。中盤まではこの3人の日常をひたすら見せられて、お客さんはどう思うんだろう?という不安もあったのですが、役者さんの声や絵の力のおかげで、日常パートも楽しんでいただける不思議な手触りの作品になったかと思います。

テレビシリーズに慣れてしまうと、中だるみを気にしてしまう部分があるのですが、映画館という2時間ほど立ち上がれない状況で作品を観てもらう時に、いかに体感時間を長く感じずに楽しんでいただけるかということは意識して作っています。

――本作もそうですが監督の作品に泣かされてきた人がたくさんいます。監督ご自身もアニメ作品をご覧になって涙を流すことはありますか泣いたりするのでしょうか?

最近は年齢的な理由で、小さい子が頑張っているだけで涙が出てくるんですよね。泣けるシーンではなくても、キャラクターが一生懸命なだけでグッときてしまいます(笑)。

――本作で改めて、岡田さん、田中さんのに凄さみを感じた部分はどんなところでしょうか?

岡田さんの脚本には、突飛なシチュエーションがどんどん生まれてきて、セリフの力、言葉の強さを感じています。他にも素晴らしい所はたくさんありますが、そこが一番の魅力なのかなと。

田中さんは絵の魅力が1番ですけれど、キャラクターデザインだけではなく、ヴィジュアル面で全体をまとめるということもやっていただいています。僕はあまり絵が描けないので、田中さんに最終的な画面作りをお任せしています。2人には絶対的な信頼感があって、この3人で作っているからこそ、どんどんアイデアを出してもらって、それを脚本にフィードバックして、イメージボードにも反映させていくという作り方が出来るので、本当にありがたいことだなと思っています。

――他のスタッフさんに対しこんな所を特に助けられたという部分はありますか?

助監督についてくれた森山(博幸)君は、今まで撮影監督として前作、前前作に携わってもらっていました。今回は演出もやってみたいということでお願いしたのですが、CGの分野も明るいので、CGチームとスムーズに連携がとれましたし、映画の中に出てくる絵本も森山君が描いてくれたんです。イラストを描いているという話は知っていたのですが、いざ描いてもらったら「こんなに凄いものが!」と驚きましたし、本当にたくさん助けてもらいました。

――劇中に登場する絵本のタッチ、素晴らしいですよね。監督が制作においても、日常生活でもコミュニケーションで大切にしていることはありますか?

監督という立場なので、各セクションになるべく伝わりやすいように、コンパクトに伝えることを意識しています。でもそれは監督という役職があるから出来るのであって、逆にプライベートだとグダグダしていますね。出来るだけお茶を濁しておきたいタイプというか(笑)。そんな自分だからこそ、この『ふれる。』の脚本を読んで、なるほどなと共感しながら作り上げられたのだと思います。

――今日は素敵なお話をどうもありがとうございました!

オリジナル長編アニメーション映画『ふれる。』

永瀬 廉 坂東龍汰 前田拳太郎

白石晴香 石見舞菜香 

皆川猿時 津田健次郎

監督:長井龍雪

脚本:岡田麿里

キャラクターデザイン・総作画監督:田中将賀

音楽:横山 克 TeddyLoid

監督助手:森山博幸

プロップデザイン:髙田 晃

美術設定:塩澤良憲 榊枝利行(アートチーム・コンボイ)

美術監督:小柏弥生

色彩設計:中島和子

撮影監督:佐久間悠也

CGディレクター:渡邉啓太(サブリメイション)

編集:西山 茂

音響監督:明田川仁

制作:CloverWorks

YOASOBI「モノトーン」

(Echoes / Sony Music Entertainment (Japan) Inc.)

配給:東宝 アニプレックス 

製作幹事:アニプレックス STORY inc. 

製作:「ふれる。」製作委員会

©2024 FURERU PROJECT

絶賛公開中