【菊花賞】乱戦模様の展開を制したアーバンシック、そのスケールは“キタサンブラック級”の活躍を予感させる?

 10月20日(日)、クラシック三冠の最終戦となる菊花賞(GⅠ、京都・芝3000m)が行なわれ、単勝2番人気のアーバンシック(牡3歳/美浦・武井亮厩舎)が中団から差し切って優勝。初のGⅠ制覇を成し遂げた。

【動画】鋭い末脚で差し切り勝ち! アーバンシックが菊花賞を制す 2着には4番人気のヘデントール(牡3歳/美浦・木村哲也厩舎)が食い込み、ハナ差の3着には6番人気のアドマイヤテラ(牡3歳/栗東・友道康夫厩舎が)健闘した。

 一方、1番人気に推されたダービー馬のダノンデサイル(牡3歳/栗東・安田翔伍厩舎)は4コーナーでほぼ最後方からの苦しい競馬となり、直線で追い込んだものの6着まで差を詰めるのが精一杯だった。

 長丁場だけに騎手同士の駆け引きが重要になる菊花賞だが、それにしても道中の入れ替わりが激しい乱戦模様の展開となった今年の一戦。スローペースでレースが進んだこともあり、1周目のホームストレッチなかばで観客の声援につられて引っかかる馬が続出。なかでもピースワンデュック(牡3歳/美浦・大竹正博厩舎)、メイショウタバル(牡3歳/栗東・石橋学厩舎)がエキサイト気味に先頭、2番手へと上がって行く。はじめは4~5番手を進んでいた注目のダノンデサイルは少し位置を下げて7~8番手の最内を追走。アーバンシックは3番人気のコスモキュランダ(牡3歳/美浦・加藤士津八厩舎)は中団馬群のなかを進み、アドマイヤテラとヘデントールは8枠からのスタートとなったこともあり、無理せず最後方にポジションをとった。

 やはり次の動きが出たのは2周目第3コーナーへと向かう坂の上りのことだった。中団より後ろの馬たちが激しいポジション争いを繰り広げ、最後方を進んでいたアドマイヤテラやヘデントールらが外から進出を開始。その一方でダノンデサイルは行きっぷりが悪く、鞍上の手が動きはじめるが、そこで外からどんどんと他馬に前へ入られて前が壁になって、ずるずると後方まで位置を下げてしまう。

 そして迎えた直線。最終コーナーで2番手まで押し上げていたアドマイヤテラが先に仕掛けて一気に先頭へと躍り出るが、そこへ襲い掛かったのが馬群から抜け出してきたアーバンシック。クリストフ・ルメールの鮮やかな手綱さばきに応えて鋭い末脚でアドマイヤテラを交わして先頭に立つと、脚を伸ばしてきたヘデントールやショウナンラプンタ(牡3歳/栗東・高野友和厩舎)、ビサンチンドリーム(牡3歳/栗東・坂口智康厩舎)の追撃をものともせず、2着に上がったヘデントールに2馬身半差をつけて圧勝を飾った。

 ダノンデサイルは体勢を立て直して後方から追い込んだが6着に終わり、3番人気のコスモキュランダは直線でまったく伸びが見られず14着に惨敗。掛かり気味に2番手を進んだ5番人気のメイショウタバルもバテて16着に沈んだ。
  勝ったアーバンシックは、父スワーヴリチャード、母エッジスタイル(父ハービンジャー)という血統。昨年8月のデビュー戦(札幌・芝1800m)を勝利で飾ると、11月の百日草特別(1勝クラス、東京・芝2000m)を連勝。今春は京成杯(GⅢ、中山・芝2000m)でダノンデサイルの2着に食い込むが、その後は皐月賞(GⅠ、中山・芝2000m)が4着、日本ダービー(GⅠ、東京・芝2400m)が11着と、クラシックでは上位馬に歯が立たなかった。
  しかし、ひと夏を越して成長を見せたアーバンシックは新たにルメール騎手を鞍上に迎えると、秋の始動戦となったセントライト記念(GⅡ、中山・芝2200m)でコスモキュランダに1馬身3/4差を付けて差し切りで快勝。ルメール騎手が手綱をとって勝利を挙げた馬が4頭も菊花賞にエントリーするなかで指名を得ると、乱ペースに惑わされずロスなく進路をとる名手の好アシストを受けて一気に頂点まで上り詰めた。

 実は本レースのプレビュー記事で、菊花賞の過去10年を馬体重でフィルタリングすると、500㎏を超える大型馬が勝利を挙げたのは2015年のキタサンブラックのみだったことをお伝えした。ことしも2着のヘデントールが472㎏、3着のアドマイヤテラが482㎏と500㎏を下回っていたが、アーバンシックは510㎏。この伝で言えば、スケール感を感じさせる本馬は将来的に”キタサンブラック級”の活躍が見込めるのかもしれない。

 ヘデントールとアドマイヤテラは、8枠から外を回っての競馬となったが、アーバンシックに届いたとは考えづらく、両頭とも現状の力を出し切っての結果と映る。そのなかでも、アドマイヤテラで早めに仕掛けて勝負に出た武豊騎手の”読み”の確かさが光る。

 ダノンデサイルは、「1周目でごちゃついたが、競馬だから仕方ない。最悪の流れのなか、6着までよく頑張ってくれた」(要旨)と横山典弘騎手がコメント。第3コーナー付近から鞍上に促されながらの追走となったが、末脚の鋭い切れ味を見る限りバテていたとは考えられず、一種の”ズルさ”を出したか、揉まれ弱いメンタルか、もしくはダービーからの”ぶっつけ”参戦によるレース感の問題によるものではないか。能力は間違いなく世代トップクラスだが、ときにこうした凡走も有り得るタイプかと推察する。

 その他で目に付いたのは、最速の上り(35秒4)で5着となったビザンチンドリーム。追い込み一辺倒の脚質ではあるが、きさらぎ賞(GⅢ、京都・芝1800m)を勝ったポテンシャルの高さをあらためて感じさせる競馬だった。展開の助けがあれば何時”一発”があっても不思議はなく、怖い存在として記憶しておきたい。
<了>

取材・文●三好達彦

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