スパンキングは子供の発達に悪影響をほとんど及ぼさないと判明
大規模研究の結果、スパンキングが子供の発達に悪影響を及ぼす可能性は1%未満だと分かりました。
例えば、スパンキングが、子供の問題行動や攻撃的な行動に繋がる可能性は0.64%でした。
体罰を受けた子供は、暴力的になったり、ルールを破る・盗みを働くなどの反社会的な行動を繰り返すようになったり、同級生とトラブルを起こしやすくなったりすると言われていますが、スパンキングではほとんど関連性が見られなかったのです。
またスパンキングを受けることで、自己肯定感が低くなったり、抑うつ症状や不安障害が見られたりするという考えもありますが、今回の研究ではそのような関連性はほとんど見られず、その可能性は上述の0.64%よりもさらに低いものでした。
制御されたスパンキングが子供に悪影響を及ぼす可能性は1%未満 / Credit:Canva
こうした結果は、「子供へのスパンキングが有害だ」というこれまでの報告が、いくらか誇張されていたかもしれないことを示しています。
また、今回の研究では、「バックアップ・スパンキング」が、タイムアウトに従わない子供をそのままにするよりも効果的だと分かりました。
バックアップ・スパンキングを受けた子供は、親の言葉に従い、タイムアウトに協力する可能性が大幅に高くなったのです。
加えて、バックアップ・スパンキングを含むスパンキングの効果は、子供の年齢によって異なると分かりました。
子供が2~6歳と幼い場合、スパンキングが子供の問題行動を僅かに減少させると判明し、若干の良い効果をもたらすことが分かりました。
しかし、子供が成長するにつれスパンキングの良い効果は薄れ、特に8~11歳の子供には、やや悪影響を与えると分かりました。
そのためラゼレール氏は、今回の研究から、次のように結論づけました。
「お尻を叩く最も効果的な方法は、タイムアウトなどの軽いしつけに従わない2~6歳の子供のお尻を叩くことです。
このような方法であれば、反抗的な子供はより軽いお仕置きのうちに従うことを学び、結果として、叩くことを段階的に減らしていくことができます」
今回の研究では「スパンキング(体罰)を含むしつけは、子供にほとんど悪影響を与えない」ことが示されました。
しかし、これまでの研究結果や、子供時代辛い思いをしてきた人々の声と矛盾するようにも思えます。
なぜこのような違いが生じるのでしょうか。
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問題は「体罰そのもの」ではなく「体罰の乱用」にある
今回の研究結果と、これまでの体罰に関する研究結果に違いが生じたのはなぜでしょうか。
ラゼレール氏はその理由を、「これまでの研究は、効果的なしつけとそうでないしつけを区別してこなかった」と説明しています。
薬などの医学分野の研究では、薬の投与量や、最も効果を発揮する条件が一貫して定義されるものです。
しかし、しつけに関する研究では、そのような定義づけがほとんどなされてこなかったというのです。
これは、実際にしつけを行う親、その効果性を論じる人々にも当てはまります。
誤用されてきた体罰。親は「常に制御された体罰」を行えるだろうか / Credit:Canva
これまで「体罰」という「しつけ」は、明らかに誤った方法で使用されてきました。
「しつけ」という名目で、親が怒りに任せて何度も叩いたり殴ったりすることがありました。
「スパンキング・お尻叩き」ですら制御されず、明確なルールもなく、親や先生たちの気分のままにそれが実施されたり回数が増えたりしました。
この点について、ラゼレール氏も次のように述べています。
「明らかにスパンキングは誤った判断で子供に下されており、これが子供に有害な影響を及ぼしていた可能性があります。
スパンキングが、あまりに厳しく、あまりに頻繁に、無秩序な子育てのアプローチの一部として用いられると、子供に有害な影響を及ぼします」
歴史を通じて「制御されない体罰」が横行した結果、現代で「体罰そのものを禁止する考え」が広まっているのも納得できます。
今回の研究では、「年齢や方法、頻度などが正しくコントロールされた体罰は、子供に悪影響をほとんど及ぼさず、やや良い結果をもたらす場合もある」と分かりました。
単に体罰の使用を親や教育者側に容認すれば、制御できずに乱用されてしまうことは歴史が証明していますが、だからといって完全に禁止してしまえばこれも良い結果に繋がらない可能性があります。
体罰の効果と影響が正しく理解されなければ、子供の問題行動を改善できなくなったり、問題のない親が虐待者として裁かれてしまったり、虐待をしつけとして言い逃れされたりという状況が続いてしまいます。
今回の研究はこうした問題に一石を投じ、私たちに新たな課題と疑問を投げかけています。
参考文献
Does spanking harm child development? Major study challenges common beliefs
https://www.psypost.org/does-spanking-harm-child-development-major-study-challenges-common-beliefs/
元論文
Resolving the Contradictory Conclusions from Three Reviews of Controlled Longitudinal Studies of Physical Punishment: A Meta-Analysis
https://doi.org/10.1080/01494929.2024.2392672
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部