ドラ1投手3人がプロ1年目でトミー・ジョン手術...各球団は球界の“現代病”トミー・ジョン手術とどう向き合うべきか<SLUGGER>

 2024年の新人選択会議(ドラフト)が今日、開催される。

「投手ドラフト」と呼ばれ、大豊作だった昨年に比べるとややスケールは落ちるが、上位候補に異なるタイプの選手が顔を揃えるなど、非常にバランスの取れた陣容と言えるだろう。ドラフト前日の時点で1位指名を公表したのが広島(宗山塁/明治大)だけというから、それほど評価するポイントが分かれているということなのかもしれない。

 公表を避けるということは、当日になってみないとどの選手が指名するかが読めず、これは2位以下の指名にも影響するだろう。各球団は、例年よりも情勢の変化に臨機応変に対応していくことが求められるドラフトとなりそうだ。

 なかなか候補が絞れない要因の一つには、昨年のドラフトが影響しているのではないか。昨年は3球団が競合した武内夏暉(国学院大→西武)を筆頭に、実に7人の1位指名選手が東都大学野球連盟出身の選手だった。だが、そのうち3人がプロ1年目にトミー・ジョン手術を受けるという事態になっている。

「ドラフト前に検査もできない中で、それを見抜けというのはなかなか難しい。スカウトのせいにされたらたまらんけどな」

 1位指名した草加勝(亜細亜大)が入団早々にトミー・ジョン手術を受けることになった中日のチーフスカウトを務める米村明は困惑を隠さない。長くチーム作りに貢献してきた敏腕スカウトの一人だ。 日本では、ドラフト候補選手が事前にメディカルチェックを受けるシステムがない。せめて契約前にでも検査することができたらいいが、それもままならぬ現状では、入団直後に大きな故障をしてしまうケースが起きてしまうのは致し方ないかもしれない。

「うちも過去にはそういうことがあったから、スカウトには調査はしておくようにとは言ってある」
 
 GM退任以前に西武の渡辺久信氏にこの件について尋ねたところ、そんな答えが返ってきた。「他人事ではない」というような口ぶりで、この問題の難しさについて話してくれたものだ。

 肘の靭帯損傷という故障の難しいところは、その遠因がさまざまあることだ。パフォーマンスが下がっているからといって靭帯に問題があるとは限らないし、投手によってはパフォーマンスが出るからこそ出力オーバーになり、その結果、靭帯を痛めてしまうことも少なくないのだという。

 事実、昨年秋のリーグ戦で草加のピッチングを見たが、特段、変な様子は感じなかった。

 靭帯損傷に至る原因には、登板過多以外にストレートの高速化や変化球の高回転化も指摘されている。ドラフト候補では「150キロ以上のストレート」など、スペックの高さがそのまま高評価につながることが多いが、そうした投手は一方で怪我のリスクも抱えているということを頭に入れておかないといけない。 では、この問題にどう対峙するべきなのだろうか。

 一つは渡辺久信元GMが言うように、徹底的に調査することだ。完璧に見抜くことはできないとはいえ、どこかに情報が転がっているということもある。ある時期から球速が落ちている、投げ方が変わっているといった点は判断材料になるだろう。

 もう一つの対処法は、時代の流れとしてトミー・ジョン手術のリスクを受け入れることだ。

 トミー・ジョン手術は1年以上のリハビリを必要とされる大手術だが、1度目であれば以前と同じパフォーマンスを取り戻せる確率は高いと言われている。メジャーではダルビッシュ有(パドレス)が手術後に球速が伸びてハイブリッドな投手に成長している。国内でも阪神の才木浩人やDeNAの東克樹がトミー・ジョン手術を経験した。巨人の山﨑伊織は東海大時代の20年6月にトミー・ジョン手術を受け、その年のドラフトでは2位指名で入団するも見事に復活。今季は2ケタ勝利を挙げている。 トミー・ジョン手術が安全だとまでは言わないが、今や投手の高速化は当たり前になってきていて、それだけ故障のリスクと隣り合わせで戦っている。1年を棒に振ってしまうことを嘆くことよりも、そこからどうサポートするかまで考えておく必要があるのかもしれない。

 昨年の歓喜のドラフトから3人の投手が1軍で1球も投げることもないままに手術に踏み切ったというニュースを聞いた時は、ドラフトの怖さを感じたものだ。ただ、球団も対処の方法はある。

 果たして、各球団は球界の“現代病”とも言えるトミー・ジョン手術とどう向き合っていくのだろうか。昨年の1位指名投手3人が手術に至るという異常事態を経て迎えた2024年のドラフトで各球団の姿勢がどのように変化してきたのか。これも、今年の隠れた注目ポイントかもしれない。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。

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