「最後は気合いで乗り切った」石井さやかが東レPPOベスト8入り! 名コーチも目を見張る“スピードへの対応”<SMASH>

「疲れて、死にそうです…」

 それが、フルセットの死闘を制し、「東レパンパシフィックオープンテニス」(以下東レPPO)で3回戦進出を決めた石井さやかの、第一声だった。

 第1セットは4-6で落とすも、第2セットは武器のフォアハンドが火を噴き、ウイナー連発で6-2で取り返す。だがファイナルセットの第1ゲームで、3連続ダブルフォールトで、いきなりのブレークスタート。直後にメディカルタイムアウトを取った時は、配色濃厚かの重い空気が有明コロシアムを占めた。

 だが治療を受けコートに戻ってきた石井は、再びフォアの強打を左右に打ち分け、怒涛の5ゲーム連取に成功。そこから相手に2ゲーム奪われるが、不安や疑念に襲われる暇も体力も、石井には残っていなかったようだ。

「最後は気合い。気合いだけで乗り切りました」

 試合から1時間ほど経った会見でも、戦略や細かい展開は思い出せない様子。勝利への執念で、疲れた身体を駆動させつかみ取った、殊勲の星だった。
  スコアは4-6、6-2、6-3の接戦だが、この日の試合だけを見るなら、試合時間は2時間10分とそこまで長いわけではない。それでも、これだけの疲労を石井が覚えているのは、この3週間の蓄積によるものだろう。

 2週間前には、全日本テニス選手権決勝で、齋藤咲良との死闘を制して優勝。その栄冠を喜ぶ間もなく、東京駅から大阪に向かう最後の新幹線に飛び乗って、翌日にはジャパンオープンの予選を戦った。その試合で敗れたのは、スケジュール等を考えれば仕方ないだろう。ただ、どこかで釈然としない思いも抱えつつ、石井は再び東京に戻り、今大会の予選に備えた。

 その予選決勝では、世界64位のクララ・タウソンに、フルセットの逆転勝利。そして本戦の初戦では、またもや齋藤との再戦。皆から注目されながら戦う試合や過ごす時間は、内面にも負荷を強いるだろう。

「毎試合、タフな選手相手に、ずっと集中して戦うというのは、本当に疲れる」

 初めての経験に、19歳がこぼす笑みにも疲れの色がいくぶんにじんだ。
  東レPPO2回戦のゼイナップ・ソンマスとの一戦で、石井がそこまで疲れた訳は、「頭脳」にもあるようだ。試合後、今季から石井のツアーコーチを務めるネビール・ゴドウィンに、勝利の鍵を問うと「スピードへの適応だ」と即答した。

「試合の序盤は、相手のボールのペースに付き合ってしまった。そこから自分のペースも少し変え、調整し、そして最後は自分のリズムで攻められるようになった。とても頭を使っていた。さやかは、もの凄くスマートにプレーした」

 それが、ケビン・アンダーソンや、チョン・ヒョンらをトップに引き上げた手腕を誇る、ツアーきっての名コーチの採点。なおゴドウィンは、ここ半年ほどの石井の最大の成長を、「メンタリティと、コート上での所作」だと言った。その背後にあるのは、石井のポテンシャルに対する絶対的な信頼。
 「彼女は特別な才能を持っている。さやかは、欧米の大柄な選手相手にも打ち勝てる」というのが、名コーチの石井評だ。
 
 2回戦の試合中に取ったメディカルタイムアウトの理由は、ケガではなく、体調面的なものだという。

 次の試合までに、心身のエネルギーはどれほどリチャージできるだろうか? 3回戦で石井が当たるのは、世界16位のディアナ・シュナイダー。20歳のシュナイダーは、石井世代のフロントランナーとも言える、既にツアーの常連だ。

 連戦の疲れがあるのは、長いシーズンを戦ってきたトップ選手たちも同じ。シュナイダー戦は、石井の進化と真価が問われる、楽しみな一戦になる。

取材・文●内田暁

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