もしもあの時、帰国していたら、オールブラックスと呼ばれるニュージーランド代表に入っていたのではないか。常に周りからそうささやかれるラグビー選手が、日本代表にいる。
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ワーナー・ディアンズ。身長201センチ、体重117キロの22歳である。
おもなポジションは2列目のロック。空中戦や地上戦の軸だ。高さ、頑丈さが求められる。ここでこの人は、本来の役回りを全うするうえで速さ、手先の器用さも長所とする。自ずと高い目標を掲げる。
「世界一のロックになりたいです」
来日してきたのは中学2年の頃だ。プロのS&Cコーチである父のグラントさんが、日本の現NECグリーンロケッツ東葛で仕事を始めたのがきっかけだ。
ニュージーランドにいた幼少期はバスケットも掛け持ちしていたが、列島では楕円球一本でキャリアを積む。
流通経済大柏高へ進んだ当初は、約185センチでやや細かった。サイズアップしたのは、1年目のオフから毎朝のウェートトレーニングを重ねたからだ。急激に背も伸びた。
母のターニャさんはネットボールのニュージーランド代表だ。高校の指導者は、本人が「将来、オールブラックスになりたい」と話していると知る。
しかし高校卒業後のディアンズは、周囲の勧めもありこの国の現・東芝ブレイブルーパス東京と契約した。母国へ戻らず、さらにこの国の大学を経ずに、当時のトップリーグへ参戦するプロ選手となった。2021年のことだった。
その年の11月には、早くも日本代表デビューを果たした。ブレイブルーパスで公式戦デビューを果たす前のことだ。
さらに’22年10月29には、東京は国立競技場で極上の体験をした。憧れのオールブラックスに挑んだのだ。
後半16分、向こうの蹴った球へ手を伸ばして弾く。そのまま胸元へ納め、約40メートルを走り抜けた。トライ! 試合は惜敗も、31―38と肉薄した。
希代の才能は、’23年にはワールドカップフランス大会へ出場。今年発足の新体制のもとでも赤と白のジャージィを託され、10月26日、神奈川・日産スタジアムで再びオールブラックスと対峙する。
「今回はあんまり(母国との対戦することへの)特別な気持ちはなくて。前回はいい試合して勝ちそうだったので、今回は、もうちょっといい結果を出せるように頑張りたいです。まあ、試合で、自分たちのラグビーができれば勝てると思います」
今年のテストマッチではここまで3勝4敗と黒星を先行させる。ただし大きく若返ったばかりのチームが新コンセプトの「超速ラグビー」を理解し、より遂行できるようになったと実感。だからこそ、世界ランクで11上回る3位の強豪国にも自信を持って挑める。
体格で下回らないことにも手応えを掴む。相方のロック候補に202センチのサライナ・ワクァら巨漢がいるのを踏まえ、こう語る。
「いま(の日本代表)は身長の高い選手も、身体がでかい選手もいっぱいになっている。フォワードパックの対戦も楽しみです」
バックアップ体制にも喜ぶ。
高身長ながら低い姿勢でもプレーできるディアンズは、跳んだり、沈んだりするので膝へ負荷をかけがちだ。この身体的な傾向を踏まえ、代表側からオーダーメイドの強化プログラムを授かっているという。
午前中はチーム練習のほか、ケアとトレーニングを兼ねたエクササイズで膝を強化する。合間、合間には、スタッフの力を借りてマッサージも施す。たとえば、「試合ができるレべルの怪我」を負ったとしても、よりフィットした状態でプレーできるようだ。
「ちょっとずつ調子がよくなってきている感じがするので、それをやり続けていきたいと思います」
プロ野球の世界では、ディアンズが応援する横浜DeNAベイスターズがクライマックスシリーズを制して日本シリーズへ進出した。
もっともいま優先するのは、毎朝6時台には動き出すタフな日程を充実させることだ。野球をチェックする余裕もなく、「疲れてます、はい」とディアンズは微笑んだ。
取材・文●向風見也(ラグビーライター)
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