侮っている。そう捉えられても仕方があるまい。
ラグビー日本代表にとっての次の相手はニュージーランド代表。オールブラックスの異名で知られる強豪だ。10月26日、神奈川・日産スタジアムで待ち構える。
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過去のワールドカップ(W杯)では3度優勝。現在の世界ランクではジャパンより11つ上回る3位だ。世界的には格上にあたる。
今度の対戦も、その後の欧州遠征の前哨戦のように捉えている。日本でプレー経験のあるスコット・ロバートソン新ヘッドコーチは認める。
「今回の日本遠征は、我々にとっても理想的な段取り。世界の下側にあるニュージーランドから欧州へ行くのは遠い。まず日本に行き、欧州へ…というのは流れとしてよい」
横浜で出場させるメンバー23名中11名は、キャップ(テストマッチ出場数)がひと桁台もしくはノンキャップ。先発フランカーは元主将のサム・ケイン、リザーブのスクラムハーフはW杯2度出場のTJペレナラと一部にベテランも混ざるが、これから代表定着を目指すタレントが多くを占める。
主軸候補のほとんどは、26日の試合を前に日本を離れるようだ。試合のメンバー発表はキックオフの48時間前までとされるなか、オールブラックス側は日本代表戦のラインナップを4日前にアナウンスした。関係者は説明する。
「どうせ火曜の練習を見た人にはばれてしまうから」
タマイティ・ウィリアムズ、パシリオ・トシの両プロップは140キロで、ロバートソンは「(サイズ差で)圧倒したい」とその狙いを強調するが、対する日本代表については「若い選手が大活躍しているのを把握しています。特に李承信は素晴らしい」。李は今回、コンディションの都合で未選出である。別な場所では、引退した堀江翔太らの名を挙げた主力選手もいたとされる。
それに対し、日本代表のエディー・ジョーンズヘッドコーチはこの調子である。
「ニュージーランド代表側が何を考え、何を言い、どんなセレクションをして、どんな行動をしているかに、自分は全く興味を持ちません。選手にもそうあって欲しいと願います。自分たちは自分たちに神経を集中させ、試合では最後の笛が鳴るまでジャパンらしく戦います」
まずは自分たちのスタイルを貫き、自分たちの土俵でゲームを進めたい。今年約9年ぶりに復帰のジョーンズは、そう言いたげだ。 今回ボスが繰り返すフレーズは「追い詰める」。かつてオーストラリア代表、イングランド代表を率いてオールブラックスを倒してきたのを踏まえ、こう語る。
「ニュージーランド代表を追い詰める準備を進めてきた。プレッシャーをかけ続けないと勝利は得られない」
自前の『超速ラグビー』というコンセプトのもと、素早い連係、素早い走り込みで向こうを慌てさせるつもりだ。
ボールを保持するか、穴場へ蹴り込むかのチョイスでも先手を取る。この手のジャッジを下すスクラムハーフでは、藤原忍がスタメンを張る。意気込みは簡潔だ。
「一瞬、一瞬の判断を大事にしていきたい」
いったん球を手離すキックを選んだならば、捕球役の周りへ一斉に網をかける。オールブラックスのお家芸たる、混とん状態からの即興的なアタックを未然に封じたい。
後衛には韋駄天を並べる。フルバックで早大2年の矢崎由高はその象徴だ。各自のスピードを「プレッシャー」に昇華する。
局面が蹴り合いに転じても、献身的なカバーリングと戻りで陣地を守る。攻め返しを図る。ウイングのマロ・ツイタマは決意する。
「バックフィールド(後ろのスペース)のカバー、守備…。大切になってきます」
連続攻撃を仕掛ける際は、接点への援護役が注視される。
骨格と腕力に長けるオールブラックスは、接点で球出しを鈍らせにかかるだろう。それに対し日本代表の援護役は、走者を『超速』のイメージで支えたい。
ジョーンズは述べる。
「サポートで、ハードワークする。ニュージーランド代表の防御を見ると、我々のアタックでは(走者が)半身、前に出るようなことができると思う。ただ、そうなるとどうしても走者が(孤立しやすくなる分)もろさが出てしまう。そこへいかにサポートがつけるかというトレーニングをしてきました」
向こうがストロングポイントに掲げそうなスクラムでは、低い一枚岩のパックを意識。最初のつかみ合いで間合いを詰め、それぞれの対面の胴体を丸めながら組みたい。これも「ジャパンらしく」にあたる。
最前列中央のフッカーでは、ワールドカップ(W杯)経験者の坂手淳史がスターターとなる。新進気鋭の原田衛はリザーブだ。
指揮官は説く。
「坂手にはスクラムの基盤を作ることを期待します。原田もフィニッシャーとして重要な役割を担っています」
オールブラックスがどんなメンタリティにあっても、日本代表がチャレンジャーの立場であることは変わらない。
今年6月以降のテストマッチではいまのところ黒星先行。今度のメンバーでも、キャップ数が0から9の選手は23名中12名と先方よりも多い。成長途中にあって巨木にぶち当たる格好だ。
もっともそのシチュエーションさえ、うってつけの舞台装置に見立てるつもりのようだ。このほど昨秋以来のテストマッチ出場となるフランカーの姫野和樹は、己に言い聞かせるように発した。
「日本は、弱い国じゃない。強い国。その自信を持って臨む」
取材・文●向風見也(ラグビーライター)
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