中国の株式市況が乱高下を繰り返している。習近平政府の経済対策が二転三転しているためだ。
恒大集団の債務返済問題が発覚したことで中国経済が大不振に陥っていることを世界中が認識してから3年が過ぎた。
この間何度も景気対策が期待されたが、習近平政府は「積極財政と穏健な金融政策」を旗印にして、根本的な対策はしなかった。バブルが崩壊しかかっている時の大型の景気刺激策は、一つ間違えれば経済壊滅の引き金にもなるため、大胆な政策に踏み切れなかったのだ。
ところが、中国人民銀行は9月27日、景気浮揚の“劇薬”投入に踏み切った。
金融機関から強制的に資金を預かる比率である「預金準備率」を0.5%引き下げ、日本円にして約21兆円の資金を金融市場に放出。さらには、低迷する株式市場のテコ入れのために、機関投資家による株式投資や企業の自社株買い資金の調達を支援する仕組みを作った。
これを受けて、歴史的安値にとどまっていた上海市場の株価は20%以上も高騰。ところが、建国記念日である国慶節休暇(10月1~7日)があけると一気に下落に転じたのだ。
この状況に中国政府は肝を冷やし、新たに特別国債を発行して大手銀行に資本注入を行い、不動産リスクに対応していくという強いメッセージを市場に送った。その後も習近平政府は、低所得者への補助金支給や不動産市場支援などの施策を繰り返し打ち出している。
本来なら、景気刺激策は財政を含めて大胆に行いたいところだ。ところが、株式市場、不動産市場、民間経済、就職対策など、バラバラ感がぬぐえないので劇薬の効果が薄まってしまっている。
ではなぜ、バラバラになってしまったのか。本来であれば、経済対策であれ、台湾問題であれ、国家の方針を決めるような決断をできるのは習近平主席だけである。
今夏までは、中国経済の不振にも習近平主席は「積極財政と穏健な金融政策」で押し通した。習主席に権力集中し過ぎたことで、正確な情報が届かなかったから大胆な政策を打てなかったのだ。
だが、ここに来てののっぴきならない大不況。党の威信が低下することを恐れ、習主席は政策転換に追い込まれたのである。
一人独裁の権力構造の下では、党・政府幹部の使命は習主席の政策を実行することだ。当然、中国人民銀行、国家発展改革委員会、地方政府も例外ではない。にも関わらず、いまそれぞれの政策に連動性は見られない。これこそ一人独裁の壁である。
(団勇人)