“へなちょこ”だった女子プロレスラーはいかにしてシングル王者に上り詰めたのか? 「不安だけどやらなきゃいけない」アイスリボン真白優希を突き動かす想いとは?

 10月19日の後楽園ホール大会で女子プロレス団体アイスリボンのシングル王者になったのは、紆余曲折だらけのキャリアを歩んできた選手だった。デビュー当時、チャンピオンになると予想していたファンはいただろうか。

【画像】強くて可愛いギャップに胸キュン!破壊力抜群な“美しき戦士”たちを一挙にチェック! その選手の名は真白優希。もともとは看護師になりたかったそうだ。看護科に進める高校にも通っていたが、同時にアイスリボンの一般向けプロレスサークルに参加。それがきっかけでプロを目指し練習生になる。

 デビュー当時の真白がどんな選手だったかといえば“へなちょこ”である。練習生時代のエキシビションではドロップキックを一発食らってギブアップしたことも。面白いくらいに弱いと言えばいいのか、ともあれ個性の強い選手ではあった。

 そういう選手が悪戦苦闘しながら力をつけていく。シングル王座決定トーナメントでは決勝進出。この試合で勝ちベルトを巻いたのは、現在スターダムで活躍する安納サオリだった。

 2022年の大晦日、一度は引退している。プロレスは期間限定、やはり医療の道に進みたかった。だがリングから離れてみるとプロレスへの思いが募る。

 引退から1年あまり、今年1月に復帰を果たす。ここ数年、アイスリボンからは鈴季すずなど主力が何人も退団しており、立て直しの時期でもあった。

「これからは女子プロレス大賞を狙えるような選手に」

 復帰戦のあと、そう語っていた真白。星いぶき、松下楓歩と若い3選手で団体の新時代を担うことが期待された。ところが春に“異変”が訪れる。いぶきは妊娠により欠場。おめでたとはいえ中心選手が試合から離れることになった。さらに松下も負傷による長期欠場。
アイスリボンのシングル王座には、ガンバレ★プロレス所属のYuuRIが就いた。レギュラー参戦している選手だから違和感はない。とはいえ、今のアイスリボン を引っ張る重積を他団体の選手に任せてしまってもいけない。真白はそう考えた。

「私が(ベルトを)獲らなきゃいけない。その気持ちは凄く重かったです」 そんな真白に、さらなる重圧がのしかかる。選手たちが所属する株式会社アイスリボンの社長が音信不通になってしまったのだ。運営会社は別だから大会を開催することはできているが、選手としては当然、不安が募る状況だ(社長は入院中だという)。
  そういう中でのタイトルマッチ。ベルトを巻きたい。しかしベルトを巻くことで背負うものはあまりにも重い。

「今日を迎えるのがみんな不安で。体を張ってるし、命かけてるし。私も凄く怖かったんですけど、自分が先頭に立って引っ張らなくちゃと。不安だけどやらなきゃいけない。“こんな状況じゃなければ”とも思いましたけど」

 そこに“へなちょこ”が個性のレスラーはいなかった。体は小さい。パワーもない。けれど責任感が真白をつき動かす。不利な展開が続く中、少ないチャンスを必死でものにしようとする。

 途中からは泣きながら、叫びながらの攻撃。終盤はダメージもあり技の精度が落ちた。蹴りがなかなかクリーンヒットしない。ならばと、当たるまで何度も何度も蹴る。

 タイトルマッチにふさわしい試合内容だったとは言えない。ただ真白らしい試合ではあった。真白にしかできない試合で、彼女はチャンピオンになった。

 会社の事情を観客にも明かしたのは、団体を引っ張る者としての誠意でもあるだろう。練習生時代のエキシビションでも今回のタイトルマッチでも泣いていた真白だが、結果いまベルトを巻いている。こんな選手になるなんて、本当に誰も思わなかった。

 大会の直前、いぶきが無事に出産。真白はチャンピオンとして盟友たちの帰りを待つ。

取材・文●橋本宗洋
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