「微量ながら貢献できたのなら良かった」異なるクラブで2年連続のJ1昇格。エスパ宇野禅斗の胸中は安堵感に包まれていた

[J2第36節]栃木 0-1 清水/10月27日/カンセキスタジアムとちぎ
 
 積み重ねてきた練習の成果を実践する絶好機。CKのキッカーを務めた清水エスパルスの宇野禅斗は、一点に狙いを定めていた。
 
 0-0で迎えた50分、ニアサイドの中村亮太朗をターゲットに蹴り込んだ宇野のCKを中村が頭でスラすると、そのボールに反応した住吉ジェラニレショーンが右足で先制点を決めた。
 
 歓喜に沸く清水イレブン。J1昇格の扉をこじ開ける決勝点は、宇野の右足がきっかけとなった。結果的に“虎の子の1点”を演出した宇野は「練習を積み重ねてきた形でしたし、狙い通りでした」とゴールシーンを振り返る。
 
 勝てばJ1昇格が決まる栃木SC戦での宇野は、自身の能力を存分に発揮した。ボール奪取能力とセカンドボール回収力に長けたボランチは、セカンドボールへの予測と出足で相手を上回っては何度もルーズボールを回収。機転を利かせたポジション取りから相手のパスをインターセプトした。
 
 また栃木はクロスボールを主体とした攻撃やセットプレーがストロングポイントであるため、戦況に応じて最終ラインをサポート。相手のセットプレーの場面ではストーン役として、栃木の攻撃をはね返す場面もあった。
 
 90+6分に交代で退くまで、縦横無尽にピッチを駆け抜けた宇野。「自分がピッチに立っている時間は1秒たりとも休まず、必ず勝利に貢献する」。そんな勝利への強い意思が、宇野の背中を突き動かした。
 
 夏の移籍市場で清水のユニホームに袖を通した宇野は、加入を熱望した反町康治GMから「思う存分、自分の力を発揮してほしい」と要望されていた通りの実力を示している。中盤の底のポジションから危険な芽を摘み取る“強度特化型”ボランチとして、宇野は清水のJ1昇格を加速させた存在の1人だったと言っていい。
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 清水にとって、3年ぶりとなるJ1復帰の瞬間はベンチ前で迎えた。8分のアディショナルタイムをしのぎ切ったチームメイトに勝利を告げるホイッスルが鳴り響くと、宇野の胸中は安堵感に包まれていた。
 
「J1昇格という第1目標を達成できて、本当にホッとしています」
 
 昨季の町田でのJ1昇格に続き、2年連続でJ1昇格の瞬間を迎えた宇野は、町田のJ1昇格決定時とは違った感情に支配されたという。
 
「移籍して違うチームでプレーするのは初めての経験だったなかで、もう一回、J1昇格という景色を見ることができて嬉しかったです。またチームメイトやコーチングスタッフ、そしてファン・サポーターの皆さんは昨季からの悔しい思いを抱えていたので、皆さんの喜ぶ顔を見ると、自分もいろいろな感情が湧いてきました」
 
 J1昇格決定試合となった昨季のロアッソ熊本戦で先制ゴールを奪取し、昇格に貢献できたと胸を張れる昨季とは異なり、今季は清水のチームメイトにここまで連れてきてもらったという感覚が強い。
 
「微量ながらも昇格に貢献できたのならば良かったと思う」。そう言って謙虚な姿勢を崩さない宇野は、シーズン途中加入という難しさを抱えながらも、必死に清水にアジャストしようと、「チームに追い風を吹かせられるような力を発揮する」ことに注力してきた。その結果が、異なるクラブで勝ち取った2年連続のJ1昇格という歓喜だった。
 
 秋葉忠宏監督が「最低限のマスト」として掲げていたJ1復帰が決まったとはいえ、シーズンはまだ終わっていない。試合後の会見で指揮官が何度も繰り返したJ2優勝に向けて、宇野は「勝ち続けて必ず優勝します」と強い覚悟を口にした。
 
取材・文●郡司聡(スポーツライター)

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