胃の粘膜が傷つけられて、凹むように深く欠損した状態を「胃潰瘍」と呼ぶ。その原因をストレスと決めつけるのは早計だ! シニア世代は常用薬の飲み方や、幼少期の暮らしを振り返るべきかもしれない。

「お腹の内部が針でチクチク刺されているような痛みを伴います。主に食事中や食事後に、みぞおち付近が痛みます。そして、胃からの出血が胃酸と混ざると、色味が真っ黒になり、『タール便』として排泄されます」

 胃潰瘍の症状をこう解説するのは、東京・四谷にある「四谷内科・内視鏡クリニック」の高木謙太郎院長だ。胃は食物を消化・殺菌して小腸に吸収しやすい形状に整える消化器官の“要衝”。時には体に毒となる物質を嘔吐する役割も担う。「粘膜筋板」という、胃の粘膜を覆う強い筋肉の膜よりも深い層をエグられたような傷を「潰瘍」という。

「『アフタ性口内炎』のような見た目をしている『びらん性胃炎』よりも重い症状が現れる。胃には痛覚はありませんが、周辺の組織に炎症が起きて痛みが生じるようになります。症状が重篤になると『穿孔』といって胃が破れてしまうことも。人によってはまったく症状が現れずにそのまま数カ月で治ってしまうので、病院に行かずに市販の薬を飲んで経過を見る人も少なくありません。

 ところが、損傷個所からの出血の影響で貧血や吐血の症状が現れるばかりか、最悪、ショック状態になるまでに血圧が低下してしまう恐れがあるんです。自然治癒するケースがあるからといって、安易に自己判断してはいけません」

 実はストレスが原因になるのは全体のわずか1割未満。そのほとんどが痛み止め薬の長期服用と「ピロリ菌」によるものになる。

「『ロキソニン』や『イブプロフェン』に代表される『NSAIDs』という非ステロイド系の抗炎症薬の長期服用によって潰瘍ができるリスクが高まります。例えば関節痛を整形外科に診てもらうと、痛み止めと胃薬を処方されると思います。薬剤師から胃が荒れるのを防止するために一緒に飲むように指導されますが、『別に胃は悪くないから飲まない』と勝手に飲まずにいると潰瘍ができてしまいかねないのです。かつては、整形外科で胃薬が処方されずに胃潰瘍になってしまうことも珍しくありませんでした」

 後者の原因も、知らず知らずのうちにあなたを蝕んでいるかもしれない。

ピロリ菌は60歳以上の2人に1人の割合で感染していると言われています。というのも、土壌に生息している菌で感染源の多くは井戸水でした。近年は都市部を中心に衛生状態がいいので、感染者数自体は減少傾向にあります。しかし、井戸水を飲む習慣がなくても、人を介しても感染するので、赤ちゃんの頃に食べ物を親に咀嚼してもらって食べていた方は感染している可能性があります。ちなみに、胃酸の酸性度が弱い5歳頃までは感染しやすいと言われています」

 一度感染してしまうと、「抗生剤」と「胃酸抑制薬」で除菌治療しないと居ついてしまう“厄介者”。どんなに「R1」や「ヤクルト」を飲んでもやっつけられないのだ。

【「胃潰瘍」チェックシート(13)】

セルフチェックで6点以上は近くの医療機関へGO!

(1)毎日アルコール飲料を飲む 1点
(2)激辛や塩辛い食事を好む 1点
(3)喫煙習慣がある 1点
(4)親がピロリ菌に感染しており、幼少期に親が咀嚼した食物を口にしていた 1点
(5)幼少期に井戸水を飲んでいた 2点
(6)痛み止めを飲む時に胃薬を一緒に飲まない 2点
(7)ゲップの回数が増えた 2点
(8)自分の口臭が気になる 2点
(9)痛み止めの薬を長期服用している 4点
(10)他人に口臭を指摘されたことがある 4点
(11)みぞおちの付近がチクチク痛む 6点
(12)数日、タール便が続く 6点
(13)激しく吐血した 6点

(つづく)

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