30歳で深夜の警備員バイト。無名から『情熱大陸』出演した空飛ぶ写真家「山本直洋」とは。

「俺はいつか成功する」。歯を食いしばって警棒を振った

── 空撮写真家はあまりメジャーな仕事ではなかったと思います。どのように研鑽を積んだのでしょうか。

そのころは父が仕事の関係でニューヨークにいたので、とりあえず写真の勉強をするために渡米しました。知識も技術もコネクションもゼロでしたが、何かが変わるかもしれないと考えたんです。

語学学校に通い始めたころは、当時流行っていたSNS『mixi(ミクシィ)』で情報収集をしていました。mixiで偶然つながった現地在住の日本好きのアメリカ人と仲良くなったのですが、ある日彼に仕事を尋ねると、フォトスタジオのマネージャーをしていることが分かって。

「はたらかせてほしい」と頼んで、彼に連れて行ってもらった先は、なんとニューヨークで一番大きなフォトスタジオ。ラッキーですよね。そこで数カ月間はたらきながら写真の勉強をした後、モーターパラグライダーを学ぶために日本に帰国しました。

帰国後は栃木県にあるスクールでモーターパラグライダーと空撮の勉強をしました。

人生初フライトは一人。初めて飛んだとき、小中学生のときに見ていた夢の感覚とリンクして……。言葉にできないほどの感動体験で、自分は空を飛ぶために生まれてきたと実感しましたね。

── ようやく、空飛ぶ夢を叶えたんですね。

ここからが長い道のりでした。30歳でフリーランスの写真家になったのですが、まったく稼げず、バイトを掛け持ちする日々が続きました。深夜の警備員のバイト中、「俺はいつか成功するんだ」と歯を食いしばりながら、警棒を振っていましたね。

35歳を過ぎたころ、ようやく写真で生活できるほど稼げるようになりました。キヤノンギャラリーで写真の展示をさせてもらったり、有名な写真誌『アサヒカメラ』や『ナショナルジオグラフィック日本版』で写真を使ってもらったり……。

写真を始めたころの目標を次々と叶えられた一方で、写真家として一歩抜きん出た存在になれないことに悶々としていました。であれば、自分にしかできない仕事を“つくる”しかないと考えて、思いついたのが世界七大陸の最高峰を空撮するプロジェクトです。

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世界七大陸最高峰空撮への挑戦で「本当の自分」になれた

──2022年にはアフリカ大陸・キリマンジャロでの空撮に挑戦されました。実際に挑戦してみていかがでしたか?

資金集めや許可取りなど、大変なことも多くありましたが、行動を起こして良かったと感じています。


キリマンジャロにてモーターパラグライダー空撮に挑戦する山本さん

また、昔から抱いていた「俺は絶対に成功するんだ」という漠然とした自信が、根拠のある自信に変わりました。「世界七大陸最高峰空撮」達成に向けて動き始めたときから、ようやく自分が本当にやりたかったことをやれるようになったと感じられたんです。

振り返ってみれば、明確なやりたいことが分からず、とにかくいろいろなことに手を出してきた人生だったと思います。ただ、どれも本当にやりたいことなのか、確信が持てなかった。

「世界七大陸最高峰空撮」はクライアントワークではなく、初めて自分でゼロから企画したプロジェクトです。通常のヘリコプターやセスナでは、4,000m以上上がることは難しい。ジェットエンジン搭載の航空機であれば上がることはできるものの、機外に出て撮影することは困難です。

また現在のドローン性能は著しく向上していて、エベレストの上まで飛んだという記録もありますが、僕は機械で撮っても意味がないと思っています。

生身で空を飛び、その場の風、温度、匂い、空気感などを全身で感じて、自分自身が心が震えるくらい感動してシャッターを切るからこそ、人間の感情が入った写真になるのだと感じています。このような撮影を可能にするのがモーターパラグライダー空撮です。

まだ挑戦は始まったばかりですが、「このプロジェクトで生活できるようになる」という覚悟を持って、自分が本当に望む仕事をできている実感があります。

──プロジェクト成功に向けて、初めてのクラウドファンディングにも挑戦されていますね。ただ「自分が本当にやりたいこと」が分からず、悶々としている20代は多いと思います。どうすれば見つけられるのでしょうか?

とにかく、たくさんのことにトライしてみるしかないと思います。トライのなかで、「これだ」と確信できるものと出会えるはず。僕も、今はやっと空撮に落ち着きましたが、これまでやってきた写真以外のことも無駄だったとは決して思っていません。


南アメリカ大陸・アコンカグア空撮の実現に向けたクラウドファンディングを実施

少しでもいいので、普段の自分がやらないことをやってみる。たとえば、朝いつもと逆方向の電車に乗って、会社をサボって気になっていた場所へ行ってみるなど、なんでもいいんです。ルーティンワークから抜け出してみるだけで、世界が変わって見えるかもしれません。

変化や気付きがあったら、あとは自分を信じて一直線に歩みを進めていくだけ。迷ったら、未来の自分が後悔しない道を選んでください。その先にはきっと、見たこともないような景色が広がっているはずです。


2024年10月には標高4,807mのモンブランの上空・高度約5,200mでの空撮に成功

(文・写真:水元琴美・編集:いしかわゆき・写真提供:山本直洋さん)