米ニューヨーク・タイムズが、数千人の北朝鮮兵士がロシア西部のクルスク州に到着した、とのアメリカとウクライナ当局者の談話を伝えたのは10月25日のこと。
クルスク州は今年8月のウクライナによる越境攻撃により一部地域が掌握されたことを受け、領土奪還に躍起になるロシア軍との間で激しい戦闘が行われている地域だ。
報道によれば、現時点ではまだ北朝鮮兵士が戦闘に参加している形跡はなく、同部隊が具体的にどのような役割を担うかは不明とのことだが、部隊は「暴風軍団」などと呼ばれる精鋭の集まりで、28日までには最大5000人が現地入りする見込みだという。
全国紙国際部記者が語る。
「北朝鮮兵士の投入について韓国国防相は24日、『金正恩氏が自身の独裁体制を強固にするために軍隊を違法な侵略戦争に売り渡した』との談話を発表し痛烈に非難しています。その韓国の情報機関、国家情報院によれば、『暴風軍団』は正規軍兵士ではなく、1人あたり月2000ドル、日本円で30万5000円ほどで雇われた傭兵的軍隊である可能性が高いのだとか。その証拠に、ウクライナ軍が公開した北朝鮮兵とされる映像を見る限り、体格は小さくあどけない印象もあり、10代~20代にも見える。そのため単なる“弾除け”として送られてきたとも考えられるものの、国家情報院の発表通り、年内に北朝鮮が1万人の兵士を1カ月間派遣した場合、対価として北朝鮮側が手にする現金は30億円以上。となれば、いかに批判を浴びようがお構いなしで、外貨獲得のため次々と兵士をロシアに投入することは間違いないでしょう」
ウクライナ当局は、大量の北朝鮮兵流入を想定。北朝鮮兵が投降、捕虜になった場合に収容される収容所の動画を早くも公開し、「大きくて暖かく明るい部屋に収容されます。収容所では一日3食を提供。献立には肉・新鮮な野菜・パンが含まれます」などと北朝鮮兵に対し投降を呼びかけている。食糧難が続く北朝鮮の兵士らがこういったPRをどう捉えるかも、今後の戦況を占う上では重要な要素になりそうだ。
また、国家情報院では「兵士らは体力もあり士気は高いと考えられるが、実戦経験が不足しており、戦線に出れば死傷者が多数発生することは明らか」として、そうした情報が北朝鮮国内に伝わる中、金正恩体制への反発や不安定要素が高まっていく可能性は否定できないだろうとしている。
「しかし問題なのは、そもそも両国の兵士がうまくタッグを組んで戦うことができるのか、という点。北朝鮮兵士が数千人派兵されたクルスク州では、すでに両軍兵士の間で軋轢が生じ始めているとの報道もある。そこが最大の問題になるかもしれません」(同)
ウクライナ国防省情報総局によって入手された傍受記録を公開した米CNNの報道によれば、ロシア兵が北朝鮮兵の指揮体制や弾薬、装備品の提供状況を巡って懸念を示しており、傍受された音声には「K大隊」とコードネームが付与された北朝鮮部隊を「クソ中国野郎!」「撤収させろ!」といった罵声がしっかりと収められている。
「この音声は23日夜に、暗号化されたロシアの通信チャネルから傍受されたもの。ウクライナ当局の分析によれば、北朝鮮兵30人につき通訳1人、上級将校3人を付ける計画があるようなのですが、これに対し『どうして奴らにそんな特別待遇するんだ!』と、ロシア兵らが怒りをあらわにしたということでしょう。今後最前線で両軍がうまくやっていけるかは甚だ疑問です」(同)
いかにトップ同士が決めたとはいえ、戦場の最前線は文字通り、一瞬の判断が生死を分ける場所。その前途多難な行方に注目が集まっている。
(灯倫太郎)