清水エスパルスで攻撃のキーマンとして躍動する乾貴士と、守護神として最後尾から守備を引き締める権田修一。世界を経験してきた両者のピッチ内外での尽力なしに、今季の清水は語れない。頼りになる2人がチームもたらしているものとは…。
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「何が一番影響力あるかって、2人とも誰よりも練習してますよ。努力してる。他の選手たちも、彼らがあれだけやってるんだからついていかなきゃ、もっとやんなきゃと思うし、発言にも重みが出ますよね」(秋葉忠宏監督)。
乾貴士36歳、権田修一35歳。同学年で元日本代表、チームを代表する2人の影響力として第一に挙がるのが、練習量や取り組む姿勢というのは象徴的だ。特に権田の居残り練習の時間と量は際立っており、それに日々つき合っている沖悠哉も着実に成長を重ねている。
乾も「ゴンちゃん(権田)は凄いけど、自分はそんなことないですよ」と言うが、毎日若手と一緒に居残り練習に励み、今季は例年以上に強度を増しているフィジカルメニューにも最後まで食らいついている。
乾のフィジカルに関して、秋葉監督が興味深いデータを教えてくれた。「走行距離は大したことないけど、スプリントの距離と回数はずっとチーム1位なんですよ」。いつ、どこで走るかという判断が的確なので、走行距離が少ないという印象もそれほど受けない。実際、彼が高い位置でボールを奪ってチャンスにつなげるというシーンは、昨年より確実に増えている。
乾本人も「今年は走力のところを最初からすごく言われているので、自分も意識してやってますし、守備でも去年より後ろを助けたいと思ってやっています」と言う。それほど走れる力を維持していることが、彼の見えざる努力の証明でもある。
■練習からも伝わる“世界一”を目ざす想い
権田に関しては、GKらしく言葉でチームを引っぱるという面でも大きな役割を果たしている。「チームの引き締め役として、隙を見せないとか、より細部までこだわるというところを常に伝えてくれています。本当に細かいところで勝負は決するということを、彼はワールドカップや海外の経験から肌で感じていると思うし、それを我々スタッフが言うんじゃなくて、選手から出てくることが非常に大事なんです」と秋葉監督は語る。
ただ、権田本人としては「いつまでも僕が言っていていいのかなというのは、秋葉さんにも伝えています。4年前に僕が来てからその状況が変わっていないとしたら、チームとしてどうなのかと思いますし」と、複数の選手が役割を継承していくことを求めている。
とはいえ、セービングの安定感やキック精度などプレーの面でも衰え知らずなので、彼の引き締め効果はやはり絶大だ。
2年前にインタビューした際、権田は「世界一のゴールキーパーになりたい」と語ったが、その想いが今も変わりないことは、練習を見ていても伝わってくる。
「今年はGKコーチとして新たに土屋(明大)さんが来て、僕ら選手を分析して、どうしたらもっとうまくなるかすごく考えて、練習メニューも工夫してくれるので、すごく学ぶことが多いです。ビルドアップの面でも能力を上げられていると思いますし、すごくプラスになっています」(権田)
世界一のGKという目標も「現役でやってるうちは変わらないと思います」と真顔で語る35歳。それほど旺盛な向上心を保ち続けるのは、誰もができることではない。
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もちろん日々精進という姿勢は、乾も同じ。「あと何年やれるかも分からないので、1日1日をしっかりと、楽しくやりたいと思ってます。去年からポジションも(トップ下に)変えてもらって、新しい楽しさもありますし、もっとうまくなりたい、もっと楽しくサッカーできるようにしたいと考えながらやってます」。彼自身が誰よりもサッカーを楽しむと同時に、サポーターにも見て楽しいサッカーを提供し続けている。
「乾さんも自分の経験を話してくれますし、何より一番大事なサッカーを楽しむ気持ちとか、なぜ自分たちがサッカーをやっているのかといった根本的なところを教えてくれている気がします」と11歳下の山原怜音は言う。サッカー王国・静岡のファンが喜ぶゲームを見せるという意味でも、乾の影響力は大きい。
昨年は勝点1、1ゴールの差で昇格を逃した清水。そのため今季は秋葉監督が「勝負強さ」に徹底的にこだわり、隙をなくすこと、細部まで精度を上げること、走力を上げること、球際で勝つことなどに注力してきた。
■自分自身もチームもさらに成長できると信じている
乾や権田がそこを牽引してきたこともあって、昨年までより勝負強さが出てきたことは感じとれる。「2人の存在がなければ今年のエスパルスはないと思います」と山原も証言する。
ただ、当の2人は現段階では勝負強くなったと感じていないようだ。
「僕は勝負強さとか分からないので、その時、その時で一所懸命やるだけです。こういう(昇格&優勝争いの)シチュエーションというのはすごく楽しみですし、それを楽しみながら勝てるのがベストですね」(乾)
「勝負強くなれたかどうかは、今季が終わらないと分からないですよね。もっと言えば、来年J1に上がったとしたら、そこで何ができるかが答えになると思います」(権田)
自分自身もチームもさらに成長できると信じているからこそ、答えを急ぐことはない。考え方やチームに対するアプローチは異なる2人だが、日々の練習、目の前の試合に全力を尽くすことが未来のためにも何より大事だという点では、見事に一致しているようだ。
取材・文●前島芳雄(スポーツライター)
※サッカーダイジェスト2024/11月号から転載・加筆。
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