ホルスタイン種やジャージー種など乳牛を飼育し、牛乳や乳製品を生産する酪農家。当然、乳牛として需要があるのは乳を出す雌牛のため、生まれたのが雄牛だった場合は食用として畜産農家に販売される。
ところが、農畜産業振興機構の統計によると、食肉用に肥育されている乳用種の雄牛の平均取引価格は、21年には1頭10万8163円だったが、今年9月時点ではなんと1万6885円に。わずか3年で価値が6分の1以下に暴落しているのだ。
もともと黒毛和種など他の子牛相場ほど高くなかったとはいえ、こちらも軒並み大幅下落。酪農家にとって乳用種の雄牛は、副産物的な存在ながらそれでも大きな収入源となっていた。ただし、ここまで相場が下がってしまうと完全に赤字だ。
「子牛は全国各地の家畜市場でセリにかけられて取引されますが、500円や1000円といった最低価格での出品も確認されています。しかも、ここまで安くても未入札で終わることもあります」(農業専門紙の記者)
実は、飼料代がここ数年高騰しており、1頭当たりのコストは1日500円以上。さらに牛舎内の室温維持や換気のために必要な電気代も値上がりしており、酪農家や畜産農家の経営を圧迫しているという。
「乳用種でも雄牛は乳も出さず、肉質も食用牛として品種改良された種類には劣るため、生まれてすぐ“処分”されるケースもあるのが実情です。このまま相場が暴落した状態が続けば、日本の酪農業、畜産業全体の崩壊につながりかねません」(同)
あらゆる物価が上昇を続ける中、そうした流れに逆行するかのように下落する子牛相場。スーパーでの牛肉価格は以前よりは高くなったが、まだこの程度で済んでいるのは、生産者がそのぶん犠牲を払っているからなのだ。