オランダの実況は「今日は日本人祭りだ」と絶叫! 劇的逆転勝利をもたらしたNEC2トップの可能性【現地発】

 開幕直後、小川航基(NEC)は「オランダリーグで15ゴール取りたい。KNVBカップ決勝戦でフェイエノールトとやって勝ちたい」と今季の抱負を語った。その言葉には、昨季のカップファイナルを0-1で惜敗した悔しさが滲んでいた。

 10月29日に行なわれたKNVBカップ1回戦、NECはズウォーレを相手に89分まで1-2の劣勢のままだった。焦りからかロベル・ゴンサレスから小川へのシンプルなパスがミスになり、スタジアムにため息がもれた。その空気を一変させたのが、ズウォーレのビルドアップを断ち切った佐野航大のインターセプト。ここからNECは手数をかけずに攻めきり、左サイドから(バサル)・オナルが入れたクロスに小川が頭で合わせて起死回生の同点弾を叩き込んだ。このゴール、実は相手GKが夜露に濡れたボールに手を滑らせたミスか生まれたもの。しかし、昨季のKNVBカップで悔しい思いをした小川の「こんなところで負けてたまるか」という執念がシュートに乗りかかり、ミスを誘ったように感じられた。

「そういう魂的なところが乗り移った部分がありますね」と小川は自身の同点弾について語る。

 塩貝健人は78分からピッチに入り、小川と2トップを組んだ。19歳のストライカーの大仕事は延長に入って103分だった。ゴールキックを味方がヘッドで繋いだボールから、スピードに乗ったドリブルで右ポケットを突く。その角度、姿勢から誰もが「クロスだな」と確信した。ファーサイドにいた小川は「中に誰もいなかったので『キープしろ』と思っていた」という。相手GKもクロスに備えて前に出ようとしていた。しかし、塩貝はニアポストに狙いすましたシュートを蹴り込み、3-2の勝ち越しゴールをチームにもたらした。

「ファーストタッチの時点で『撃てるな』と思いました。コースが空いていたので思いっきり振り抜きました。今日はボールタッチとかがあんまり良くなかったので、『ここで変にボールをこねても失うから撃とう』と思ったら入りました」(塩貝)

「『えっ!?』って思った。中にクロスを入れるキックの体勢をしていたから、『クロスを上げるのかな』と思ったら撃ったんで、逆を突かれましたね。みんな『うおっ』という感じになりました」(小川)
【動画】相手GKも見送るしかない塩貝健人のスーパーゴール
 塩貝にとっては、NEC入団2️か月目に生まれたオランダでの公式戦初ゴールだった。さらにNECは延長前半105+1分、小川がクロスのこぼれ球を拾って、右足のシュートを突き刺してこの日2点目。終盤、ズウォーレにPKで1点差に詰め寄られたが、結局、4-3で競り勝った。2得点の活躍を見せたストライカーは、次のように試合を振り返った。

「あの1点が無かったらと思うと怖い。みんな、疲れていたし最後まで何が起こるかわからなかった。延長戦やロスタイムで疲弊しているなかでの得点は重みが全然違う。そういう意味ではああいう風に取っておいて良かったです」

 NECの4ゴールのうち、3点が日本人によるもの。小川の2点目にオランダのテレビ実況は「今日は日本人のお祭りだ」と絶叫した。

  小川と塩貝が初めて2トップを組んだのは第6節のヘラクレス戦(1-2)の68分から。このときは2人の役割が当事者間でも、チーム内でも整理されておらず、右サイドに生じたスペースを埋めるのに小川が奔走せざるを得なかった。その後、徐々に2トップの形ができていき、少ない出場機会のなかでも塩貝は毎試合、1つか2つ、好プレーを披露していた。

 小川は塩貝とのコンビについて、以下のように手応えを口にしている。

「点を取らないといけないところで2トップになることが多いので割り切っている。俺の良さも、健人の良さも消さずに(2トップが組めている)。今日も点が欲しいところで健人が入って、あれだけゴールが生まれた。監督にすごくいい印象を与えることができたので、このオプションが今後たくさん出てくると思っています」

 その2人は塩貝が勝ち越しゴールを決めてから、小川を10番の位置に配置する形を変えた。日本人ストライカーコンビはNECに新たな勝利の方程式をもたらすのかもしれない。

取材・文●中田 徹

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