来年、2025年に還暦を迎える奥田民生が、その仕事観、生活観、人生観について記した書籍『59-60 奥田民生の仕事/友達/遊びと金/健康/メンタル』を刊行した。後編では、お酒が好きな奥田が、節酒を始めていたという衝撃的な事実から、還暦になるということはどういうことかまでを聞きつくした。(前後編の後編)
お酒は去年ぐらいに、ふとやめてみた
──この本に、お酒との付き合い方が変わったという話が、出てきますよね。
奥田民生(以下同) うん。この何年かで、そんなに量が要らなくなってきている気はしてたんですよ。「たくさん飲んでも、だからなに? 酒が残って疲れるだけよね、次の日」みたいな。
それで去年ぐらいに、俺は休肝日がないな、と思って、ふとやめてみたんです。そしたら、5日ぐらい飲まないでいられたのよ。それで「あ、なしでいけるんだ」って気がついたら、晩酌しなくていい日ができるわけよ。自然に「飲んでないけどこのまま寝よう」みたいなことが、前よりもできるようになった。飲む日も、酔うのが早くなったから、たくさん飲まなくていいし。
──かたや、タバコは続けていますよね。1995年の「たばこのみ」という曲で「誰が何と言おうと たばこを愛してる」と宣言された通り。
うん。タバコとアイコスを併用して。
──世の中的に吸うのが大変になって、もうやめた方がラク、というのは……。
あるある。ほんとは、ここ一番で1日2本ぐらい吸ってりゃあ、幸せで健康なんじゃないかと思うんだけどね。それができたらいいけど、(音楽制作の)作業をしてるときに、どうしても流れで吸っちゃうから。それはアイコスでごまかす、みたいな感じですよ。
──それにもかかわらず、喉は丈夫ですよね。最近、40代から50代のボーカリストのライブに行くと、「今日は高音域、ちゃんと声が出るかな」という視点で観てしまうことが多いんですが、民生さんのライブでそういう心配をしたことは一度もない。酒好きだし、喫煙者だし、喉のケアをしているようにも見えないのに。
まあ確かに、なにもしてないよね。でも、歌い方が、若いときと変わっていると思うんですよ。なんというか、手ぇ抜いてんのよね(笑)。手ぇ抜いてるっていうとあれですけど、うまいことやる、そのやり方がわかってきたんですよ。
──喉を消耗せずに、大きくていい声を出せる方法がわかってきた。
50になった頃から、ガーッと力を入れて、「腹筋、大事です!」みたいな歌い方じゃなくても、「あ、この方法なら、むしろ高い声出るやん」っていうのが、わかってきて。
ライブが2日続いたりすると、喉はやられるし、そうなると昔より治りも遅いけど。でもまあ、できてるね、今のところは。だから、酒とかタバコが喉に悪いとは、一回も思ったことがないね。
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40代のときは、まさか自分が死ぬなんて微塵も思わなかった
──ここからは、書籍内で気になるところを挙げていきます。第1章「仕事」に、「運って『相手に合わせて態度を変える人』よりも、『誰といても変わらない人』のところに来る気がする」という言葉がありますよね。至言だと思いました。
ああ、そこで言いたかったのは、運はいつの間にか来ているものだから、探しに行くもんじゃない、というか。運が来たときに、気づかん人もいるけど、それに気づいて、パッとつかんで、懐にピッと入れる感じ?
──運が来たことに気づく能力が、自分にはあると。
いや……あの、今は気づかんかも(笑)。もうボーッとしてんのよ、年をとってくると。だって、昨日「ぷよぷよ」をやったんだけどさ、昔はあんなに上手かったのに、まったくヘタなのよ。あんなにやってたのに!
──第2章「友達」には、中学からの友達が亡くなった話が出てきます。「会っても会わなくても、死んでも死ななくても友達はずっと友達だ」という記述が印象的で。死というものに向き合う機会が増えていくことについて、その時の心構えなどあれば、教えてください。
心構え? ないよ、そんなもの。ないけど、俺ぐらいの年になって、まわりにそういう人が増えるっていうのは、「そりゃあ、そういうこともあるか」と思うしかないよね。自分だってわかんないしね。自分も40代のときは、まさか自分が死ぬなんて微塵も思わなかったけど、今は「いや、あるね」って思うもん。
この本に出てくる友達も、突然だったからね。以前は近い業界にいたから、めっちゃ会ってたけど、あいつが転職して違う業界に行って、会わなくなって……仕事とか、なにをやっているのかっていう話は、聞いてたけど。
で、何年も会ってなかったからさ、亡くなっても、そのままの部分はそのままのわけよ。「何年も会ってない友達」みたいなさ。もう会えないんだけど。
──このページは、「会っても会わなくても、死んでも死ななくても友達はずっと友達だ」という一文で終わっています。
俺の場合、生きてる奴でも、もう何年も会ってなくても友達だって思う奴は、いっぱいいるわけじゃない。それは亡くなっても、変わらないというか……だからまあ……死んでも「しょうがないか」って思うようになってきている年齢でもあるのかね。