今年でソロデビュー30周年を迎えた奥田民生が、書籍『59-60 奥田民生の仕事/友達/遊びと金/健康/メンタル』を刊行した。ソロ30年、ユニコーンも合わせると37年のキャリアの中で、数々の、かつさまざまな種類の書籍を出してきた奥田民生だが、いわゆる「ライフスタイル本」は今回が初めてである。奥田民生ならではの仕事観、生活観、人生観などについて、話を聞いた。(前後編の前編)
奥田民生はミュージシャンとして理想の存在?
──奥田民生という存在は、後続のミュージシャンたちから、いや、ミュージシャン以外も含めて、「あんなふうに活動していきたい」「あんなふうに生きていきたい」という、理想の存在だと思われているところがありますよね。好きな音楽を好きなようにやれている、ダサいことはやらない、スタッフから指図されない……。
奥田民生(以下同) されるっちゅうの(笑)。
──でも、そういうふうに見えている。
見えているんですよね? その「見えている」のは、俺にとっていいことなんですか? 本当はいろいろ大変なのに、そうは思われないわけじゃない? それはどうなの?
──本当はいろいろ大変ですか?
あたりまえじゃないですか!(笑)。
──自分発信ではない、スタッフから提案の仕事も多い?
うん。音楽は、やりたいようにやらせてもらってるけど、ただ、やることがそんなに多くないからね。レコーディングして、ライブやって、というだけだから。でもそこで、たとえば昔だったら、レコーディングで海外に行って、すごい勉強させてもらったし。
そういうのって、ほっといたら、俺はやんないのよ。出不精だったりするから。それを「いいからやんなさい」って、やらせてくれて、結果、それが自分の身になる。全部自分で考えて自分が決めていたら、そういうことは起きないじゃない?
だから、提案されたのがちょっと判断できない仕事であっても、とりあえずやってみれば、マイナスにはならないだろうと。「これはどう考えてもプラスにはならん」っていうのがあきらかなやつは、やりませんけど。誰かが「これはやった方がいいよ」って言うなら、「そうすか、やります」と。この本を出したのも、そういった経緯です。
俺には、自分からやりたいことが、そんなにないわけよ。「これ、昔はやれなかったけど、今ならできる」みたいな、そういうのもないし、目標もないし。なので、なにか仕事を始めるときのとっかかりを、自分からはどんどん出せない。ひとりだと、「じゃあ次のアルバムを作るわ」って言い出すまでに何年かかるんだよ、ってことにもなる。
だから、ツアーにしてもレコーディングにしても、「そろそろやりましょう。このタイミングで」って〆切があった方が、「ああ、はいはい」ってやる気も出るね。これは本にも書いてあるけど、ここは人にまかせた方が、自分にとっても、ためになるかなと思っています。
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アピールは、とっくに終了してるんだよね(笑)
──THE BAND HAS NO NAME、寺田、井上陽水奥田民生、三人の侍、O.P. KING、The Verbs、サンフジンズ、地球三兄弟、カーリングシトーンズ、ABEDON AND THE RINGSIDEなど、ユニコーンとソロ以外にも、多くのバンドをやってこられましたよね。こんなにやっている人は、他にいないと思うのですが。
いや、みんなちょこちょこやってるんだけど、掲げてやってない、ってことでしょ。みんなはもっとしれっとやってるけど、俺は「今これをやってますよ!」っていちいち掲げてるから(笑)。
──ただ、いろんな人と一緒にやりたい、という意志は強いわけですよね。
そうですね。やっぱり楽しいし、やめたくなったらやめていいっていうラクさもあるし(笑)。他のミュージシャンとやると、たとえば曲を作らなくてもよかったりするときもあるじゃん? ギターだけ弾いてるときもあるし、ドラムだけ、ベースだけのときもある。バンドの楽しさの中の、「演奏が楽しい」部分を、いろいろできるわけです。作曲は、あんまりしたくないですもんね。
──演奏は好きだけど、曲を作るのはそうでもない、歌詞を書くのはもっとそうでもない、というのは、ずっとおっしゃっていますよね。
好きか嫌いかって言われたらね、嫌いよね(笑)。でも、もちろん作ってますよ? 昨日も作ってたし。本の中にも俺がどう曲を作っているかは書いてあるけど、でも「大好きです、曲を作るの」って思ったことは、1回もない(笑)。
でも、みんなそうなんじゃない? 活動のいろんなことを考えたら、そりゃあ作った方がいいわけだから、俺も作るんだけど。でも、そういうことを考えなくてもよかったりする現場もあるわけよ、こんなふうにいろいろやっていると。
俺の場合、「自分の音楽はこういう音楽です」とか、そういうアピールは、とっくに終了してるんだよね(笑)。アピールっていうのは、最初に登場して「私、こういう者です!」みたいなことよ? ソロになってアルバム『29』『30』を出したときは、そういう感じでやっていたけど。
でもそれはもう、45歳ぐらいで終了しているの。「こういうことができて、ああいうこともできて」っていうのは、ひととおり伝えたかな、と。そうしたら次は、自分の演奏力の向上だとかさ、もっといろんな音楽に向かうだとかさ、そういう方が楽しいもんね。