衆院選で15年ぶりに与党が過半数を割り、問われるのは石破茂首相の進退だ。10月28日の記者会見で石破氏は「国政は一時たりとも停滞が許されない」とし、早々に続投の決意を表明するも、Xデーはそう遠くない未来に迫っているようだ。
国民民主との与党大連立は起きるか?
まず、乗り越えるべきは11月11日、首相指名選挙を行う特別国会である。多数派形成に向け、動きが活発になっているが、どのようにしてその日を迎えるのか。政治ジャーナリストの平井文夫氏は言う。
「日本維新の会も国民民主党も、自公への連立入りは消極的です。石破氏は、少数与党として、首相指名選挙へ臨むことになるでしょう。1回目の投票では、与野党議員ともに各党首の名前を書き誰も過半数を超えない。
石破氏、野田佳彦氏の決選投票になると思われるが、自民・立憲民主党以外の議員はどちらの名前も書かず、1回目同様に各党首の名前を書くことが予想される。無効票多数で、母数が減り石破氏が総理続投となる」(政治ジャーナリスト・平井文夫氏、以下同)
その結果、“少数与党”という不安定な中で第二次石破内閣がスタートすることになる。どのような枠組みで、政権運営となるのか。
「少数与党のまま、法案ごとに一部の野党とパーシャル連合(部分連合)を組み政権を維持することになります。主に国民から支持を得る国民民主党に賛成をもらい、法案を通すことになるのではないでしょうか」
野党側の意見が聞き入れられることで、民意が反映されやすくなる。
2012年の安倍政権以降続いた、一強多弱構造が終わりを迎えたのだ。
すでに動きがあった。10月29日に石破氏は、政治とカネの抜本的な改革として、これまで野党が求めていた「政策活動費廃止、調査研究広報滞在費(旧文通費)の使途の公開」などの意向を示している。
一方で、少数与党への懸念もある。
「国民民主の賛成を得ないと、法律一本、予算一本通せない。冷静に一歩引いて見ると、28議席しかいない政党の一声で決まるのは怖いことです。不安に思う有権者がいるのも当然のことです。
そもそも、民主主義とは過半数をとった側が決めること。少数与党という存在も、小さな野党が重要政策を決めるというのもおかしい。まず多数派を作ることが民主主義ではないのか」
2018年、ドイツのアンゲラ・メルケル首相率いる与党が過半数を割った際には、野党第1党の社民党と5か月間かけて連立協議をしている。
「時間をかけてまで連立協議をする理由は、多数与党を作らないと政治が不安定になるからです。玉木雄一郎氏は『政策を通したい』と強く訴えているが、ならば与党と大連立すべきではないのか。もちろん、ここまで異を唱え戦ってきた相手と大連立となれば批判の声はあるでしょう。
しかし、以前のドイツが5か月かけてそうしたように、1日、2日で諦めるのではなく『安保はどうする』『経済はどうする』と、細部にわたる政策について労力をかけて協議をする。その上で、大連立を作ることが政治家としての誠意であり、国民も理解を示すのではないか」
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石破茂首相のXデーは2025年の3月31日か?
今後は、年内の補正予算で、ガソリン代値下げのためにトリガー条項の凍結解除を決め、年明けには、国民民主が訴え続けた所得税減税のための、基礎控除等を103万円から178万円に引き上げる法案を推し進めることになりそうだ。
「2025年1月末に通常国会が始まり、来年の本予算の審議が行われます。ここでも、国民民主に賛同してもらう必要があります。本予算ですから、玉木氏は大本命の『103万円の壁』をぶつけてくるでしょう。
この法案が通れば、年収600万円の人が年間約12万円の減税になります。しかし、実現するためには8兆円の財源が必要です。
玉木氏は、『税収が上がっているから、上振れ分で支払う』と言っていますが、では、税収が下がったら元に戻すのか。明確な財源を示せないのであれば、国民が喜ぶ法案を言って票集めをしていた、かつての民主党政権を思い起こしてしまう。
現在の玉木氏の見通しでは、自民党内で『それは厳しいのではないか』と反対の声が必ず出るはずです」
石破氏は法案を通したい。少数与党としては通さざるを得ないからだ。しかし、党内の声を無下にすれば分裂しかねない。そこで、苦渋の決断を迫られそうだ。
「石破氏は身を差し出し、総理退陣を条件に予算を通してもらうのではないでしょうか。予算の締め切りは3月31日。その日までに予算を成立させないと、新年度の経済を動かせずに、行政がストップしてしまいます」
2025年の3月31日が石破氏のXデーになってしまうのか。
続けて、「ここから日本は”政治的混乱期”に入る」と平井氏は指摘する。
「日本は、1年ごとに首相が代わる”政治的混乱期”に入った可能性があります。12年間一人勝ちだった自民党に驕りがあり、収支報告書の不記載問題もそのひとつだ。ここから、蓄積した膿を出し切るために、しばらくはどう転んでも混乱期が続くのではないか」
取材・文/山田千穂