ロシアに派遣された北朝鮮の軍部隊が、すでに露南部クルスク地域に展開しているとの情報を受け、10月29日、記者団からウクライナ側が反撃すべきかとの質問に対し「もしウクライナ国内に入ってくるのであれば、その答えは『イエス』だ!」と述べた、バイデン米大統領。いつ戦闘の火ぶたが切って落とされてもおかしくない状況の中、韓国の情報機関、国家情報院が公表した“ある情報”を巡り、波紋が広がっている。国際部記者が解説する。
「ここ数日、北朝鮮が派兵した軍隊が『暴風軍団』と呼ばれる精鋭部隊だとの情報が流れる一方、だとすればなぜ、映像に映る10代後半~20代の男たちは皆、あんなに体が小さく痩せているのか…との疑問の声も多かった。すると国家情報院は29日、彼らは事実上“弾除け”として派兵された訓練前の若者たちで、家族には『訓練に行く』と嘘をついてロシアに渡ったものの、派兵の事実が住民にも知られ広まってしまった。そこで北朝鮮当局が、本国内の保安対策整備に本格的に乗り出すと同時に、ロシアでも軍内部の秘密漏えいを理由に携帯電話使用を禁止し、兵士たちの口止めを徹底しているとの情報を発表したんです。同院によれば、本国では子供を奪われた家族から「これでは強制派遣ではないか!」との声も上がり始めているようで、この先、北朝鮮兵士に死者が続出する事態ともなれば、政権に与えるダメージは避けられないだろうと見られています」
兵士とは名ばかりで、まともに訓練も受けていないような若者たちが派兵されたとなれば、戦場に出る前の訓練で耐えきれず、脱走を試みる者も出てくるはず。ウクライナ当局では、そんな状況を見越してか、捕虜になれば「3食と暖かい部屋を用意する」と事前にPRし脱北を促している。
ところが、そんな脱北兵士を監視する任務遂行のため、ロシア入りしている部隊があるという。それが、脱北防止に特化した北朝鮮当局が組織した「処刑部隊」だというのだ。
「この情報は28日、韓国ニュース専門局によるYTN『ニュースPLUS』に出演した同国軍事研究院の安全保障戦略室キム・ヨルス室長が明らかにしたもの。同氏によればこの部隊は、脱走を図る兵士を即座に処刑する任務を帯びた特殊部隊なのだとか」(同)
戦場では北朝鮮兵30人に対して通訳1人、ロシア兵3人が配置され、このロシア兵3人が小隊に戦闘技術を指導しているとされます。ただ、当然北朝鮮兵士はロシア語ができないため、訓練の過程でも十分な意思疎通は難しい。となれば、さすがにそんな状態で最前線配備はできないのでは、というのが軍事専門家の見方だが…。
「それはあくまでも机上の話。いざ戦争となれば何が起こるかわからない。一般的に北朝鮮軍は軽歩兵部隊が中心で山岳戦には長けているものの、平野や塹壕での戦闘経験に乏しい。加えてロシアやウクライナの地形には当然不慣れでなはず。ウクライナ戦は大きく開けた平原での慣れないドローンや塹壕での戦いとなるため、間違いなく多数の死傷者が出るはず。はたして正恩氏への忠誠心が弱い1980~2010年ごろ生まれの『MZ世代』兵士たちが耐えられるかどうか。おそらくは、戦場での失踪や死亡を装っての脱走、脱北者が相当数出ることが予想されます」(同)
現状では、北朝鮮兵士がいつ、どこの戦場に導入されるかについての情報は具体的には伝わってきていない。しかし28日放送のリトアニアの公共放送LRTでは、同国の非営利団体「ブルー/イエロー」のヨナス・オーマン代表の発言を引用。すでに北朝鮮軍とウクライナ軍が戦場で衝突し、「北朝鮮軍の部隊員のうち1人を除いて全員が戦死した。生存者が自身がブリヤート人であることを示す書類を所持していた」と伝え、現地メディアを驚かせている。
オーマン氏によれば、北朝鮮軍はベラルーシで空挺旅団などの現地軍と訓練を行ったあと、ロシアに派兵され、最終的には兵力規模も「8万8000人まで増加する可能性がある」としている。ウクライナ当局や現地メディアも、この報道を公式には確認していないようだが、ますます混迷を深めるウクライナ情勢の行方は…。
(灯倫太郎)