埼玉の46歳主婦が「カリスマ焼き芋屋」になった話。月収12万パートから月商100万に。

波乱万丈な、焼き芋屋人生のはじまり

──『いも子のやきいも』開業当初は、お客さまから「まずい」と言われたこともあったとか。それでもあきらめずに試行錯誤を続けられた原動力は何だったのでしょうか?

正直、「辞めたい」と何度も思っていました。始めたばかりのころ、「応援しているね」とたくさんお芋を買ってくださった方がいて。ある日その方の家の側まで来たので、思い切って訪ねてみたんです。そうしたら、「あの焼き芋は本当にまずかった。もうここへは売りに来ないで」って。本当にショックでした。「まずい」「ちゃんと焼けてない」「おいしくない焼き芋屋さん」と言われて途方に暮れる毎日でしたね。

実は当時、焼き芋をあまり食べたことがなかったので、正解の味が分からなかったんです。串が通ればいいと思っていたぐらい。おまけに、焼き芋を作るために買った壺もあまり良いつくりではなかったらしく、焼き芋がうまく焼けていなかったみたいで……。


いも子さんの著書「いも子さんのお仕事~夢をかなえる焼き芋屋さん」(みらいパブリッシング)にもさまざまな苦労エピソードが。

でも、周囲に宣言してしまったし、たくさんの人が応援してくれている中、腹を決めるしかありませんでした。だから、とにかく人を頼るようにしましたね。これまでは人に相談することに苦手意識があったのですが、なぜかSNSでは弱音を吐き出せて。「助けて」とつぶやくと、反応してくれる人がいる。おいしい焼き芋の焼き方も、釜を改造する方法も、仕入れ先の農家さんも、全部まわりの人が教えてくれました。

「応援し、見守ってくれる人たちを喜ばせたい」と心から願っていたので、あきらめずに続けることができたんだと思います。

──時には悩みながらも、20年近く続けてきた焼き芋屋の「おもしろさ」をあらためて教えていただけますか?

焼き芋屋は基本的にはずっと同じ地域で販売し続けることが多いので、地域の人の成長を見守れることは素敵な点だと感じています。

私、お金を持っていない子どもには「お菓子と交換でいいよ」と伝えているんです。お菓子を査定して、見合った分の焼き芋を渡します。開業当初から続けてきた制度ですが、最近来てくださったお客さまが、昔お菓子で焼き芋を買っていた方だと分かって……!「もう自分のお金で買えるようになりました」と言われたとき、お芋を通して彼女の成長を見守れた気持ちになり、胸が熱くなりました。

(広告の後にも続きます)

やりたいことがないあなたへ

──現在は、ご自身が焼き芋販売をするだけでなく、焼き芋屋を開業したい方に向けて講座を開講されています。なぜ講座を始めたのでしょうか?

たくさんの喜びを与えてくれて、自身を幸せにしてくれた「焼き芋屋」という仕事に恩返しをしたいと考えたからです。私が生きる希望を求めて焼き芋屋を始めたように、はたらくことに自信を持てずに悩んでいる人にも、何か気づきを得てほしいんです。

「自分には無理だ」と感じている人にこそ、私の生き方を届けていきたい。そして、焼き芋業界がより盛り上がる手助けができたらうれしいですね。

──はたらいてはみたものの「自分の居場所はここではない」と感じている人も多いと思います。「ここだ」と思える場所を見つけるためにはどうしたら良いでしょうか。

まずは、「自分自身に許可を出してあげて」と伝えますね。「ここは違う」と分かっていながらもなかなか抜け出せないのは、「途中で辞めること=悪」だと誤認してしまっているからだと思うんです。自分が積み上げてきた努力が無駄になってしまう、とか、まわりに無責任だと思われる、とか。

周囲の目もある中で「無責任でも良い」「辞めても良い」と自分に許可を出すのは、責任感が強い人ほど苦しいはず。でも、1年後、3年後、10年後には、逃げ出すことなんて大したことなかったと思うんです。むしろ、そう思えるように、新しい場所で夢中になってがんばれば良いのではないでしょうか。

それから、やりたいことが分からないなら、本屋に行きましょう。本屋に行って、自分の気になるコーナーへ足を運んで、目についた本をめくってみる。それだけでも、何か新しい発見があるはずです。

ネットサーフィンをしていても何も見つかりません。でも、本屋は料理、美容、スポーツ、ビジネスなど、ジャンルの区分がはっきりしているため、直感的に惹かれるものを選べるんです。ゼロからやりたいことを見つけるのは大変ですが、選ぶことなら難しくはないはず。

一つ選べたら、自分なりのかたちにしていくことが大切です。学んだ知識をSNSで発信するのも良し、つくった料理を人に食べてもらうのも良し。小さくても良いからまずはかたちにしてください。かたちにしたものを見つめて、「私にもできるんだ」と心から実感してほしいです。周囲の力を借りつつ試行錯誤を重ねながら、自分の小さな国を少しずつ広げていくことで、いつの間にか世界が広がっているはずです。

(文・写真:水元琴美 編集:いしかわゆき)