外国人旅行者は「数」はでなく、「モラルの高さ」を求めるべき
「鹿に噛まれた!」と奈良公園を紹介(中国のSNSより)
加えて、自らも熱烈な日本ファンである香港人社長が、日本のオーバーツーリズム問題に秘策を伝授してくれた。
「日本は外国人旅行者の『数』を求めるのでなく、『モラルの高さ』を求めるべきです。まず観光税の導入です。中国大陸出身者でも、パスポートが香港やアメリカ、オーストラリアなど新しい国籍を手に入れている中国人は比較的モラルが高い。公共施設の利用料という意味合いも理解してくれるでしょうし、安くない観光税を支払ってまで訪日してくれる旅行者を増やすために必要な施策です」
次に仕組みも大切だ。
「例えば、中国大陸の高級ホテルは、今でも、宿泊客がチェックアウト時にフロントにカギを返却すると、フロントスタッフが係員に連絡して部屋をチェックするという仕組みになっています。係員が盗難や破損がないことを確認できるまで、宿泊客をホテルから絶対に出しません。こういうコストのかからない仕組みは、今すぐに導入するべきです」
また、同社長は日本の観光地に多い注意書きについても指摘する。
「私有地だから無断で入るなとか、写真を撮るためだったらここに並べとか、深夜まで騒いだりする観光客はお断りとか…。あんなもの天真爛漫な中国人にかかったら『無断ではなくひと言お願いすればいいのか』『撮影以外の目的だったから並ばなかった』『俺様にとっての深夜は午前2時だ』などと言い訳されるだけです。しかも違反したところで罰則がないから効力ゼロ。たとえ罰則が存在したとしても、執行する人件費が追いつかない。だったらなおさら観光税の徴収や罰則強化などでふるいに掛けることで、観光資源を守ってほしい」
タイの「微笑み」と同様に、日本の「おもてなし」は有限の無形資産ではなかろうか。観光業に携わる人が我慢を強いられるだけでなく、地元住民も眉をひそめる行為を放置してはならない。
文/北上行夫
北上行夫(きたかみ・ゆきお)
ジャーナリスト。香港メディア企業ファウンダー。2001年より日系コンサルタント会社やローファーム向けに中国本土を含むASEAN販路開拓業務に従事。香港人/日本人/大陸人/華僑の不条理に挟まれ20年余、2018年より日本支社プロジェクトマネージャー。2023年より中華圏マーケット調査&ライターが集う「路邊社」に参画。テーマはメディアが担う経済安全保障。X(旧Twitter):@KitakamiYukio