現地時間10月31日、メンフィス・グリズリーズはホームのフェデックス・フォーラムでミルウォーキー・バックス相手に最大31点差をつけ、122-99で快勝。連敗を2で止めた。
ウエスタン・カンファレンス7位の3勝3敗としたグリズリーズは、今季チーム3位の平均18.8点に5.4リバウンドをマークするデズモンド・ベインが腹斜筋、平均5.6点、2.8アシスト、1.20スティールを残すマーカス・スマートが足首を負傷し、先発2選手を欠いてこの試合を迎えた。
それでも、エースのジャ・モラントが26得点、10リバウンド、14アシストのトリプルダブルと躍動。さらにサンティ・アルダマが19得点、9リバウンド、ジェイレン・ウェルズが16得点、7リバウンド、スコッティ・ピッペンJr.が16得点、ジャレン・ジャクソンJr.が13得点、5リバウンドを残すなど、計7選手が2桁得点をあげる全員バスケットでバックスを粉砕した。
この日、現地アメリカはハロウィンを迎え、2WAY契約でチームに帯同している河村勇輝は忍者の仮装でソーシャルメディアを賑わせた。試合では第4クォーター残り2分55秒に地元ファンの歓声を浴びてコートイン。残り1分21秒に放った3ポイントはリングを捕らえられず、ここまで計4試合の出場で得点はゼロが続いている。
ただ、コート内のパフォーマンスに関わらず、日本代表のポイントガード(PG)は加入から約1か月で現地のファンやメディア、チームメイトたちのハートを掴んでいるようだ。
30日に地元メディア『Memphis Commercial Appeal』に公開された記事には、173cm・72kgの小兵が早くもファンお気に入りの選手になったと綴られていた。
2度のオールスター選出を誇るリーダーのモラントとは、わずか1日でハンドシェイクを交わし、良好な関係を構築。両選手のやり取りはチームメイトたちから見ても際立っていて、ジェイ・ハフは「2人がやる行ないが面白い」、ブランドン・クラークも「見ていて楽しいよ。彼らは相棒みたいでね。まるで2つの異なる個性がぶつかり合っているみたいなんだ」と語る。
超人的な身体能力で相手守備陣を突破し、得点やアシストを量産するモラントが絶対的な先発PGなのに対し、河村は3番手のPG。チーム内、リーグにおける立ち位置は大きく異なるが、両者は試合中のベンチで隣に座るなど画面越しから観ても仲が良さそうで、2番手PGのピッペンJr.は河村を「このチームのエナジー」と評していた。 スペイン代表のアルダマは「彼は英語を少ししか知らなかったけど、すでにすごく馴染んでいる。僕は英語が第二言語だけど、その難しさはわかる」と、同じ海外出身者として理解を示していた。
NBA挑戦1年目の河村は、コート上で高いレベルへの順応に努めながら、言語の面でも勉強を続けるハードな日々を送っている。もちろん、本人がチームに溶け込むため、チームメイトたちとのコミュニケーションを大切にしているからこそではあるが、その真っ直ぐで真摯な姿勢に心を動かされる人たちも多いだろう。
記事の中では、河村の“新しい動き”にも触れられている。河村は練習中、WWEのプロレスラーで、俳優・司会者の顔も持つジョン・シナが右手を広げて顔の前で左右に振る“you can’t see me”のジェスチャーを3ポイントが決まった後にしているという。
その過程で、モラントは体当たりでアメリカの文化を学んでいる河村が、余計なスラングを覚えて使ったりしないよう注意しているのだそうだ。
「彼はたくさんのことを学んでいて、まずは言ってくるんだ。なかにはそこで言うべきものじゃないこともある。でもそれがユウキなんだ。それが彼の世界で、俺たちはその中で生きているのさ」
アメリカのカルチャーへ身を投じる一方、河村は日本の文化も持ち込んでいる。その顕著な例がお菓子で、先日はグリズリーズのロッカールームに大量のキャンディー、さらにはジェリービーンズ、チョコレートを配って回った。
なかでも『株式会社 明治』のソフト食感を楽しめるグミ「ポイフル」は、カラフルなパッケージデザインも相まって好評で、八村塁(ロサンゼルス・レイカーズ)も以前インスタライブで好きだと公言していた。
実際、このポイフルはモラントもインスタグラムのストーリーズで投稿するほどのお気に入り。ピッペンJr.は早くもチョコレートの“2度目の差し入れ”を待ちわびていて、クラークは自身のロッカーにポイフルを残しておいているようだ。
もちろん、お菓子はプロ選手たちにとってコンディション管理の天敵となり得るだけに、食べ過ぎには気を付けてもらいたいところだが、河村はわずか1か月間でグリズリーズへ様々なものを持ち込み、コート内外でインパクトを与えていることは間違いない。
ガードポジションのベインとスマートの離脱期間が長引く場合、3番手PGの出番が増える可能性も考えられる。2日(日本時間3日)のフィラデルフィア・セブンティシクサーズ戦以降、河村が再びコートに立ち、NBA初得点を決めた際にはそのセレブレーションにも注目だ。
文●秋山裕之(フリーライター)