10月28日から11月6日にかけて開催されている第37回東京国際映画祭の公式プログラム「ウーマン・イン・モーション」のトークイベントが11月1日にTOHOシネマズ日本橋で行われ、俳優の菊地凛子、磯村勇斗、Netflixプロデューサーの岡野真紀子が出席。海外と日本における映像業界の女性を取り巻く環境、課題、未来についてそれぞれの視点から語り合った。
活発な議論が繰り広げられた「ウーマン・イン・モーション」のトークイベント
「ウーマン・イン・モーション」は、グローバルなラグジュアリーブランドを擁するグループであるケリングが、2015年にカンヌ国際映画祭の公式プログラムとして、カメラの前と後ろで活躍する女性たちに光を当てることを目的として発足した活動。以降、映画だけでなく、写真、アート、デザイン、音楽などにも取り組みの幅を広げ、さまざまなゲストが異なる立場から女性を取り巻く環境について意見を交換する機会を提供している。トークイベントのファシリテーターは、映画ジャーナリストの立田敦子が務めた。
是枝裕和監督がオープニング・スピーチを行った
東京国際映画祭における「ウーマン・イン・モーション」トークは、今回で4回目の開催。まずこの日は、2022年の「ウーマン・イン・モーション」トークの登壇者であり、映像業界の啓発、人材育成や教育などに精力的に取り組む映画監督・是枝裕和がオープニング・スピーチを行った。「日本に限らず、映画の文化を豊かに発展させていくためのかけがえのないパートナー」だと同イベントの取り組みに賛同した是枝監督は、「僕たちが一番に考えなければいけないのは、子どもたちに映画に触れる豊かな機会を用意する“映画教育”。もう一つは映画の制作現場を女性にとって働きやすく、出産を経ても戻ってきやすい場に変えていくこと」と課題について言及。「会場にも日本の映画界で働いてみたいと思っている人がいるかもしれませんが、そういった方たちと新しい日本映画の未来を作っていければいいなと思っています」と思いを馳せた。
「ウーマン・イン・モーション」トークイベントに出席した菊地凛子
日本映画はもちろん、ハリウッド映画やHBO MaxとWOWOWが共同制作したTVシリーズ「TOKYO VICE」などさまざまな現場を経験してきた菊地は、「プロダクションによって変わりますが、リスペクトトレーニングがあったり、インティマシー・コーディネーターが入ったり、環境が少しずつ変わってきた印象がある」と日本の撮影現場の印象を吐露。「俳優としてデビューして10年目」だという磯村は、「デビューしたての頃は、まだ現場に男性スタッフさんが多かったり、男性スタッフさんから罵声が飛んだりしているのも見てきた。最近は女性スタッフさんの数が増えているのを感じています。女性スタッフさんが、半分以上の時もある」と現場における変化を実感しているといい、女性が働きやすい環境にするための課題についても「すごく関心がある」とコメント。「女性だけで解決できる問題ではないと思う。性別関係なく、男性も一緒に問題に向き合い、まずは理解をしていくことが大事」と女性を取り巻く環境の改善には、男性の協力が欠かせないと語った。
「ウーマン・イン・モーション」トークイベントに出席したNetflixプロデューサーの岡野真紀子
2021年にNetflixに入社した岡野は、映画『クレイジークルーズ』やドラマシリーズ「さよならのつづき」などエグゼクティブプロデューサーとして⽇本発のオリジナル作品を多数⼿掛けてきた。Netflixでは積極的に女性監督やスタッフを積極的に起用しているとのこと。岡野は「今は物語や作品自体に多様性が求められている。オーセンティックなものを届けるためには、作り手も多様でなければいけない」と持論を展開。「誰かが想像して作り上げたものではなく、当事者がちゃんと実感して、共感して、物語として届ける。物語に真実性を注いで、作品を届けることを意識しています」とモットーを口にした。
近年の映像業界の大きな変革として、映画やテレビの撮影現場でセックスシーンやヌードシーンなどのインティマシー・シーンを専門としたコーディネーターである、インティマシー・コーディネーターが参加する作品が増えたこともあげられる。岡野は「ラブシーンに関わらず、少しでも不安を感じられるようなシーンがあった場合に、俳優さんがどう思っていて、ストレスにならないようにするためにはどうすればいいのか。監督がなにを撮りたくて、どのようなクリエイティブを実現したいのか。その間に入って、お互いの意見を聞いた上でストレスのない現場を作る立場の方」とインティマシー・コーディネーターの役割について説明。「私がNetflixに入ってから、インティマシー・コーディネーターの方に相談しなかった作品はひとつもない」そうで、「私がインティマシー・シーンだと思わなくても、俳優さんは思うかもしれない。たとえば温泉に浸かっているというシーンでも、俳優さんがどう思っているか意見を聞いた方がよかったりする。台本を読んでいただいて、『こういったところは、インティマシー・シーンだと考えてもいいのでは』とアドバイスをいただくようにしています」と慎重にものづくりを進めているという。
菊地は「いてくださった方が、絶対にやりやすい」と俳優としての立場から意思表示。「相手を守るためでもあるし、自分を守るため、クルーを守るためでもある。そういう立場の人がいて『大丈夫ですか。何かありませんか』と聞いてくれることで、すごく心が軽くなる。根性で行けます!ということでは、絶対にないので。デリケートなことをきちんとデリケートなこととして捉える方が一人いるのは、とても必要なことだと思います」とインティマシー・コーディネーターの重要性について語った。
「ウーマン・イン・モーション」トークイベントに出席した磯村勇斗
「僕も同じです」とうなずいた磯村は、インティマシー・コーディネーターが不在だった現場を振り返り「自分は『やりますよ』と言ってやりますが、どこか傷付いているような部分もあって。裸の瞬間、タオルもなにもかかっていなかったりして『これはおかしいよな』と思う時もありました」と告白した。「それからインティマシー・コーディネーターさんの存在を知って、制作の方に入れていただいて。そうすると、不安ごとがどんどん減っていく。細かいところまで寄り添って話をしてくださる」と実感を込めつつ、「今、日本には女性の方しかいらっしゃらない。男性のインティマシー・コーディネーターの方がいてもいいなと思う」と希望。岡野は「さっそく会社で話してみたいなと思いました」と前のめりになっていた。
ステージでは活発な議論が繰り広げられたが、最後に磯村は「女性の活躍や働ける環境づくりについて、僕ら男性がしっかりと理解をしていくことがとても大事。お互いにサポートが必要。これからも知っていきたいと思いますし、自分が発信できることがあれば声にしていきたい」としみじみ。菊地も「こういった場を通じて、いろいろなことを分かち合い、知るきっかけをもらうことが大事」と同調すると、岡野は「5年後、10年後、20年後にこの業界に入る皆さんはどうなんだろうと、未来を意識した上でお互いを知って、サポート体制を考えていくことが重要」だと未来を見つめていた。
取材・文/成田おり枝