杉作J太郎とは何者なのか。漫画家、編集者、エッセイスト、放送作家、映画監督、俳優。元芸人で元ラッパーでもある。

 最近はさらに新たな肩書が加わった。ラジオDJである。故郷、四国の松山に帰り、地元の南海放送(この局のキャッチコピーは「私たちは、愛媛主義」だ)で週に4回(火・水・木・土)、「杉作J太郎のファニーナイト」という番組をやっている。

 本作は、DJがマイクの前でリスナーに語りかけるがごとく、昨今思っていることや感じていること、過去の日記、思い出などを述べていくエッセイ。時々、詩のような文章も出てくる読むラジオ番組である。

「あーし」というのは一人称。「あたし」でも「あっし」でもない。

 杉作J太郎の文章には妙な味がある。読んでいてクセになる。

 例えば、夜の四国山中を車で走る喜びについて延々と語る。四国の夜を宇宙に例える。J太郎、ロマンティストなのである。読んでいて、オレも四国の満天の星の下を走ってみたいものよ、と思ったりもする。

「安室奈美恵によく似た高速道路料金所の職員」という話では、単に料金所の職員が安室奈美恵に似ていたというだけの話なのだが、読ませる。

 暗闇を抜けるとインターチェンジがあり、料金所がある。料金所といえば年配の職員が多いが、この夜は若い女性、しかも安室奈美恵そっくりの美少女だったというのである。それも、スーパー・モンキーズから独立した直後の安室奈美恵に激似。顔が小さい。

 料金を払うと(J太郎の車はETCをつけていない)「おつかれさまです、お気をつけて」と声をかけてくれた。10年前のできごとだという。

 綾波レイと付き合っていた、という話も不思議だ。「新世紀エヴァンゲリオン」の綾波レイである。J太郎が金銭的にピンチ状態になった時、いつも綾波レイが助けてくれたというのである。例えば、どうしても2万円が必要な時、パチンコ店に入るとちょうど2万円だけ勝った。エヴァのパチンコ台に向かうと、綾波レイが「あなたは死なないわ」「私が守るもの‥‥」とJ太郎に語りかけ、そして必要な金額だけ勝ったというのである。この妄想的恋愛? について杉作J太郎は全力で書く。

 ロマンチックな話もあれば、「うっへえ」と鼻をつまみたくなるような話も出てくる。コロナ禍の2020年、よく行っていた日帰り温泉は閉鎖中。家の風呂には入らないし、シャワーもめったに使わないので、もう2~3週間、入浴していないという。「たぶんくさいだろう」と。自分の匂いはわからない。

 そこでJ太郎は思い出す。昔、ロケの途中で「あんた、くさいで」と言われて憤慨した時のことを。帰宅してみたら脱糞していた。知らない間にうんちがパンツの中で乾いて干し芋のようになっていた、というのだ。大丈夫か?

【「あーしはDJ杉作J太郎・著/1980円(イースト・プレス)】

永江朗(ながえ・あきら):書評家・コラムニスト 58年、北海道生まれ。洋書輸入販売会社に勤務したのち、「宝島」などの編集者・ライターを経て93年よりライターに専念。「ダ・ヴィンチ」をはじめ、多くのメディアで連載中。

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